おくりびと

2008年公開当時は、父の死後時間が経過しておらずそんな映画を見る気持ちがなかった。映画の中で描かれている生と死よりも、こちらはもっとリアルな体験をしたので映画館に行こうとは思わない。それで時間が過ぎて、この間テレビで放送されたのを見た。日本アカデミー賞では13部門中10部門を獲得し、米アカデミー賞外国語映画賞を獲得した作品だ。もう、映画の出来としては申し分がない。あとは、それぞれの解釈で楽しむのがいいと思う。監督は、滝田洋二郎だ。

小林大悟(本木雅弘)は東京にあるオーケストラで、チェロの演奏者だ。1800万円の年代物のチェロを購入したばかりなのに、責任者から解散しますと言われてしまう。他のメンバーはもうそのことを知っていて、次の楽団が決まっている者が多かった。でも、大悟だけは全く知らないで、一人ポツンと残されてしまう。つまり彼は、チェロ奏者を続けることができないのだ。

おそらく子供の頃からチェロの練習をして音楽大学に進学して、苦労してプロのオーケストラの一員になったのだ。でも、彼はその道を続けることができない。もうチェロ奏者で職探しをしても無駄なので、楽器店で1800万円のチェロを引き取ってもらい妻の美香(広末涼子)を連れて故郷に帰る。父も母もいない元喫茶店の実家に戻った夫婦は、山形で職探しを始める。母は2年前に亡くなっていて、父は子供の頃家を出て行方がわからなくなっていた。コンピューターのプログラマーだった美香は、山形では仕事が見つからない。

というわけで、大悟一人で職探しを始める。そんなとき、求人広告で「旅のお手伝い」という旅行代理店みたいな求人を見つける。履歴書を持って面接に行くと、事務の上村百合子(余貴美子)がお茶を入れてくれて、「あんたよく来たわね」と言われる。しばらくして社長の佐々木(山崎努)が来て、履歴書を見るまでもなくすぐに採用が決まる。何の仕事なのかわからないで、社長のアシスタントをしろと言われる。事務所の壁に立てかけてある棺おけの説明を受けて、徐々に仕事の内容がわかってくる。亡くなった方の化粧をして、納棺する仕事だという。

帰宅した大悟は、美香に冠婚葬祭関係の仕事だとあいまいな答えをして詳細を教えない。それはもっともで、都会ではこういう仕事は業者がしてしまう場合もあるし、病院で簡単にしれくれる場合もある。納棺師という独立した職業があるのは、ごく限られた地方だけだ。最初の仕事は、同業者向けの業務用DVDの遺体役の仕事だった。

妻に内緒で仕事を続ける大悟は、最初慣れない仕事に悪戦苦闘する。病気で亡くなった綺麗な遺体ばかりではなく、死後日にちが経過していたり事故で亡くなった方々を扱うのは大変だ。そのうちに妻にばれてしまい、「普通の仕事をして、今すぐやめて、けがらわしい」と言われる。そして、妻は実家に帰ってしまう。

また、銭湯を続けている山下ツヤ子(吉行和子)の息子で同級生の山下(杉本哲也)には、うわさになっているからその仕事をやめろと言われる。でも、大悟は納棺師という仕事にやりがいを感じ始めていた。やがてツヤ子が亡くなり、同級生の前で自分の仕事ぶりを披露する。すると、山下は誤解して悪かったと謝る。

自分でも迷っていた仕事に対する自信が出てきたところに、長年消息不明だった父が亡くなったと連絡が来る。実家から戻ってきた妻と急いで駆けつけると、どこかの葬祭業者が無造作に遺体を棺おけに入れようとした。それを見た大悟は、「やめてくれ」と叫んで納棺の儀を丁寧に行う。父が子供の頃自分との思い出に持ち続けていた石を見て、大悟はすべてのことを許す。

憎むべき存在だった父を納棺することによって、大悟は一人前の男になったのだ。おそらく、妻も夫の仕事に文句を言わないだろう。どんな仕事であれ、父を超えることは独り立ちを意味するのだ。やりがいや生きがいを感じられる仕事ができることほど、幸せなことはない。ゴロゴロ。



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