カイジ 人生逆転ゲーム

福岡伸行原作の人気コミック「カイジ」シリーズを原作に、「ごくせん」などの演出をしていた佐藤東弥が監督して実写化された映画だ。わては全く原作を知らないが、大手消費者金融グループにお金を借りて多額の借金を作ってしまった人は多いだろう。また、社会の勝ち組と負け組という言葉も存在する今の日本社会のゆがみを象徴したような内容だ。一旦借金を作ってしまうと、その返済には気の遠くなる労力が必要になる。その恐ろしさをリアルな映像で描いており、主人公カイジ(藤原竜也)の熱演が光っている。日本的社会を反映する部分が多いので、この設定でシリーズ化も可能なできばえだ。

特に最初のエスポワール(フランス語で希望という意味)という豪華客船で繰り広げられる「ジャンケンカード」というゲームや、高さ200メートルの電流鉄骨渡り、その後のカイジと利根川(香川照之)とのEカードでの対決シーンが迫真に迫っている。これは、出演している俳優の演技力もあるし、舞台設定がすばらしい。ここまで念入りな撮影をすると、若干間延びした展開も余韻に変わる。

いまや大学を卒業しても就職に苦労する時代であり、正社員になることが簡単ではない。特に都会では、家賃が高いので貯金もできない若者が多いと思う。アルバイトで生活できる環境があるのだが、一旦カイジのように友人の借金の保証人になったら次の日から借金取りに追われることになる。また派遣労働者では、派遣切りという問題もある。さらに社会的弱者のことを考えてみると、ホームレスの方や刑務所の労賃の安さも思い出してしまった。

特に借金を棒引きにすると誘われて、エスポワールの豪華客船に乗せられた人たちは、全員が地下の強制収容施設に送られたと考えられる。地下で働かせる理由が、金融グループ「帝愛」の会長たちの核シェルターの建設だというのだ。この目的は、金持ちさえ生き延びればいいという考え方そのものだ。地下の収容施設で支払われる給料が極端に安く、生活用品の値段が異常に高いのは日本の刑務所のシステムと全く同じである。それと、電流鉄骨渡りを見物している金持ちが非常に悪趣味に見えた。

そんな社会的弱者をいたぶるような内容なのに、映画を見た後には爽快な気分で映画館を出ることができる。それは、ゲームに勝てば逆転して社会に戻れる仕組みがあることと、巧みな脚本の賜物だ。ジャンケンゲームで味方になる振りをしてカイジを騙す船井(山本太郎)がいたり、地下収容所で班長になって班員の給料をピンはねする大槻太郎(松尾スズキ)の存在が利いている。負け組の中でも仲間を裏切るやつがいる。

それに対して、メガネをかけた中年の石田(光石研)は多額の借金を作ってしまい、一人娘は偽名で働いている。そんな石田が最後のチャンスである電流鉄骨渡りで、「もう自分は限界だから、一人娘にお金を届けてくれ」と言い残して、カイジに金券を渡して悲鳴も上げないで飛び降りる。仲間を信じて最後まで生きる人間も描かれている。

そして、グループ会社の女社長でカイジを豪華客船に誘った遠藤(天海祐希)が、電流鉄骨渡りを見物している利根川に悪趣味だと非難するのも多様性を持たせている。そして、遠藤の助けによって三回目のEカード対決をできるようになったカイジの後日談の描き方が、愉快なのだ。この愉快で心温まるエンディングが、ユーモアも感じさせる。まだ原作には色々なエピソードがありそうだし、続編の題材には困らないだろう。



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