死刑台のエレベーター(日本版)

1957年公開のオリジナルは、白黒で上映時間も92分という密度の濃い作品だった。ルイ・マル監督が25歳という若さで脚本も担当して作ったので、当時のフランス映画界は驚嘆した。本作は、そのリメイクだ。話のあらすじや重要な台詞は、オリジナルと同じだ。現代の日本でも違和感がないような脚本と演出にしたつもりだと思う。ところが、オリジナルの説明不足なところを補ったり、登場人物にプラスアルファのエピソードを盛り込んでいる。そのおかげで、わかりやすくなったが緊張感が欠けてしまった。

横浜の古いビルに本社を構える手都グループは、医薬品関係の企業グループだろうか。会長手都孝光(津川雅彦)は戦後色々なことをしながら、今の地位を得た。妻の芽衣子(吉瀬美智子)はまだ若く、歳が相当離れている。医者である時籐隆彦(阿部寛)は外国で医者のいない場所を求めて流れていたが、会長に声を掛けられてグループに入り安定した職についた。芽衣子と時籐は愛人関係にあり、会長を自殺に見せかけて殺す計画を立てる。

ビルの電源が落ちるまでに30分しかなかったが、余裕で犯行を終えるはずだった。でも、会長の部屋に忍び込むのに使った錨つきのロープが、手すりから外れない。一旦、秘書とビルの外に出てアルファロメオのオープンカーで一周して、裏口からロープを取りに戻る。でも、予想外に時間がかかり守衛が電源を落としてしまう。ちょうどエレベーターの中にいた時籐は、閉じ込められてしまう。

一方、裏口にキーをつけたまま放置された車の近くには、チンピラに拳銃を奪われた交番勤務の警官赤城邦衛(玉山鉄二)と時籐の美容院の担当である松本美加代(北川景子)がいた。奪われた拳銃を持った暴力団の親分神健太郎(平泉成)が、高級車で走り去るのを見ていたので彼らは跡を追う。箱根の山中のコテージを備えたホテルでいっしょになった彼らは、時籐夫妻ということでチェックインする。

時籐を待っていた芽衣子は、アルファロメオに乗っている美香代を見て時籐が自分を見捨てたのかと疑う。そんなはずはないと思い直すが、頭が混乱してわけがわからない。一晩なんとか乗り切った芽衣子は、夫が殺されたことで警察に呼ばれる。全く疑われていないと確信した彼女は、交番勤務の警官と女性のカップルを探し始める。彼らを追いかけていけば、時籐にも会えると信じていた。

わてはオリジナルを、2003年にBSで放送されて見ている。この日本版リメイクは、ピストル・錨(いかり)付きのロープ・豪華な車・モーテル・銀塩カメラ・現像・睡眠薬などの要素が同じだ。違う点は、花屋の売り子が美容院の女性になっていることや若い彼氏がチンピラではなく警官にしたこと。モーテルというかコテージでいっしょになるカップルが全くの他人であるのに対して男性は、警官である彼が拳銃を盗まれたやくざの親分であること。また女性は、親分の情婦が若い警官の元の彼女である点だ。

特に若いカップルの男性を警官にしたのが、不自然な設定になってしまった。やくざの下っ端の集団に一人の警官が、同僚に見つからない場所でけんかをするだろうか。交番勤務なので、全く関係ない場所にいたのかもしれない。その点を譲っても、説明過多になっているように思う。警察の捜査の進行状況を丁寧に描写するのは、少しくどいかもしれない。拳銃は、アルファロメオに残っていたのではないのか。オリジナルでは、そうだったと思う。



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この記事へのコメント
こんばんは^^
チンピラのルイが警官になってしまったのが致命的でしたね。日本で拳銃を出すにはああするしかなかったってことなんでしょうけど。でも方やどっかの大佐が拳銃仕入れてきてるんだから、別にアルファ・ロメオに残ってるっていうオリジナルのままでも良かったのにね。
あと思ったのは、あくまで吉瀬&阿部がメインの話であるはずが、4人平等に立てちゃったってことかなぁ。役者的にそうしたのかもだけど。おかげでメインの2人の愛情の深さの描写が浅くなってしまった感がありました。
Posted by KLY at 2010年10月13日 01:03
KLYさん、こんにちは。
おっしゃるとおりなんです。
大佐は、本来阿部さんのはずなんですよね。なんでああいう展開になったのか考えてみると、出演俳優の事務所に気を使ったのかと思ってしまったです。
公式ホームページに解説をしておられる方の文章が、非常によくできているのにびっくりしました。ゴロゴロ。
Posted by とらちゃん at 2010年10月13日 08:08
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