レオニー

松井久子監督が、世界的彫刻家イサム・ノグチの母レオニー・ギルモアの生涯を映画化した作品だ。松井監督は、製作・脚本も自ら取り組んでいて「マイレオニー」という支援団体の援助を受けながら数年をかけて完成させた。レオニーという主人公をエミリー・モーティマーが、イサムの父を中村獅童が演じている。

日露戦争や第一次世界大戦が起きる激動の時代に、イサムをアメリカと日本の両国で育て続けたレオニーの母親としてのたくましさに感動した。映画の内容も、主人公の人生と同じくらい劇的だ。1867年にロスで生まれたということは、まさに西部劇の時代であり日本の幕末だ。津田梅子が同じ大学出身者として登場するけど、それ以上に力強い女性がいたことに驚嘆する。

東海岸のフィラデルフィアにあるブリンマー大学に在学していたレオニーは、自立した女性になると心に決めていた。同級生のキャサリン(クリスティナ・ヘンドリックス)とは、全く違う考え方をしているエピソードが出てくる。津田塾大学の創始者津田梅子(原田美枝子)も登場するので、同じ女性として比較になる。卒業後NYで教師をしていたレオニーは、編集者募集の広告を頼りに危ない辺りでヨネ・ノグチ(中村獅童)に出会う。危ない辺りというのは、娼婦が昼間からいるような街だ。

編集者を募集したのがヨネだとわかり、念願の職にありつく。詩集を出版して徐々に実績を積んで、ヨネは小説を出版するのに成功する。作者が日本人ということ隠して出版した。ヨネはやっとアメリカで作家として認められ、レオニーと結ばれる。でも、日本がロシアと戦争を起こしたのでヨネは日本に帰ると言い出す。レオニーは妊娠していることを打ち明けるが、ヨネは信じない。「自分を引き止めたいために嘘を言っている」と反論する。

ヨネは日本に帰国して、レオニーはカリフォルニアで男の赤ちゃんを産む。ヨネは英語の作品を日本から送っていたので、文学者としてアメリカで売れていたのだろう。レオニーに日本に来るように誘う。「父親が必要だろう」というヨネの言葉は、レオニーの心を動かした。レオニーの母は大反対するが、心は決まっていた。船で日本に来たレオニー親子はヨネの歓迎を受ける。でも、男の後ろを歩くとか靴を脱ぐことなどの習慣に戸惑う。

レオニーが戸惑ったのは、英語教師の生徒をヨネが用意してくれたことだ。それも当時としては珍しい英語をしゃべることができる日本人を3名も連れてきたことだ。さらにびっくりするのは、一人20円という月謝だ。明治の終わりから大正の時代で、20円とは破格な月謝代だ。やがて、ヨネに妻がいることがわかり、レオニーは家を出る。これは、経済的に余裕があったのだと思う。

レオニーの生き方はかなり強引で、日本の女性から見ると宇宙人だろう。津田塾の津田梅子に会って教師として雇えないと言われても、レオニーはそれほどがっかりしない。それは、自分の生き方が相当型破りだと自覚していた証拠だと思う。唯一わかちあえるのが、小泉八雲の妻セツ(竹下景子)だけだ。

レオニーは父親のわからない女の子アイリスを出産する。小学生くらいになったイサムとヨチヨチ歩きのアイリスを抱えて、レオニーは新居をイサムに設計させる。それができてしまうのだから、イサムの能力は高い。イサムは家を建てるのをずっと見ていて、大工の棟梁(大地康雄)にカンナやノミの使い方を習得する。これが、イサムのその後の人生の礎になる。

さて、映画ではレオニーが経済的に困っていたり、ヨネとの仲がうまくいっていないと描かれているが、実際は違うようだ。原案のドウス昌代の著書(参考ブログ:おおた葉一郎のしょうと・しょうと)によると、三角形の土地に家を建てるさいにヨネが立ち会っているという。また、ヨネのアメリカでの出版の編集も行っていたようだ。イサムが13歳になって、単身アメリカに行かせる。最初に行った学校が破綻するが、持って行ったノミで彫刻の腕が認められる。

でも、一旦彫刻の師に認められず、コロンビア大学の医学部に入る。1923年母と妹も渡米してNYでいっしょに住む。映画では医学部をやめろと母が言うけど、真実は違うようだ。医学部に通いながら、レオナルド・ダ・ヴィンチ美術学校にも通う。そして、すぐに個展を開いて美術学校の校長から彫刻に専念するように言われる。レオニーは、NYで息子といっしょに住み始めて6年後に亡くなる。映画の中のレオニーは偏屈ものだけど、実際には教育熱心な母親というのが実像だと思う。



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