星守る犬

村上たかし原作の同名漫画を、瀧本智行監督・西田敏行主演で映画化した作品だ。7年前に拾った秋田犬のハッピーと旅に出たおとうさんが、死に場所を求めて旅をする物語だ。映画ではおとうさんが遺体となって発見されるところから始まり、市役所の福祉課の職員と東京で出てきた家出少女がおとうさんの手がかりを探すロードムービーになっている。いわき・遠野・弘前と東日本大震災前にロケをした場所が順番に出てきて、今現在進行中の被災者の方々のことも考えながら見ることができた。ハッピーを演じた犬の一途な行動を見ていると、流れてくる涙を抑えられなかった。物語の展開が予想できても泣かずにはいられない。是非多くの方にお勧めしたい映画だ。

熊笹が背丈以上に伸びた林の中で、一台のワゴン車と男性一人と犬の遺体が発見される。地元市役所の福祉課の職員京介(玉山鉄二)は男性が死後半年で犬が死んだばかりだという時間差に興味を持ち、有給休暇を取っておとうさんの足取りを探る旅に出る。京介は子供の時に両親を事故で亡くし、北海道の祖父と暮らして育った。子供のころから読書好きは大人になっても続いて、「どんな人生でも報告書にまとめてしまえば図書館に並ぶ本を同じ」だと思っていた。でも、今度の男性は違うのではないかと思う。

東京にやってきた京介は、男性の住所氏名が有名な出版社の元社長で亡くなっていることを知る。仕方がないのでレシートやリサイクルショップの買い取り証を手がかりに、北海道まで帰ることにする。都会の真ん中で車を道路のブロックにぶつけた京介は、旭川からやってきた家出少女・川村有希(川島海荷)を助手席に乗せることになる。そこから、東京近郊の旅館の女将(余貴美子)やいわきにあるコンビニの店長(中村獅童)、遠野のリサイクルショップの店長(温水洋一)、石狩の海辺のレストランのオーナー(三浦友和)らのところに訪ねていく。

小泉純一郎が郵政民営化を争点にした選挙で大勝利を収めたころから、おとうさん(西田敏行)の生活はおかしくなる。規制緩和の名前のもとに経済の競争が激しくなり、中小企業の経営が苦しくなる。リーマンショックで一段と経済が落ち込む。溶接工として働くおとうさんは、年齢の理由からか肩たたきにあう。おかあさん(岸本加世子)は友人が始めた人材派遣会社で働き始めるが、おとうさんは家事を何もしないし娘のことも放置してしまう。おかあさんの父が亡くなったのを機に離婚届を突きつけられて、天涯孤独の身になる。残ったのは、娘が小さいころ拾った秋田犬のハッピーだけだった。

東京から東北地方を北上して、津軽海峡を渡り石狩のレストランでハッピーと別れようとする。でも、ハッピーがどうしてもいっしょに行きたいと吼え続ける。そこでおとうさんは、最後の旅のともとしてハッピーを連れて行く。コンビニで助けた万引き少年に全財産を持ち逃げされるほど人がいいおとうさんは、どこにでもいる存在だ。現在大震災で避難生活を送っている方々の境遇と重なってくる。

そんな人がキャンプ場で捨てられた残飯を食べて、北海道の山で暮らす。犬のハッピーはおとうさんに可愛がられてきたので、人を疑うことを知らない。おとうさんが亡くなったあと、ハッピーは町まで出て行って残飯をおとうさんの所に運ぶ。ハッピーの最後は、原発周辺で起きている動物放置と同じような人災だ。せめて、いっしょの場所で眠りにつけたのが救いだ。ボロボロ出る涙を止めることができなかった。



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