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こういう映画を文句なしの傑作という。ダニー・ボイル監督が、2003年にユタ州の山の中で岩に右腕を挟まれながら生還したアーロン・ラルストンの実話を映画化した。行き先を言わないで軽い気持ちでユタ州のブルー・ジョン・キャニオンに入ったために、5日間も身動きが取れない状態で死の恐怖に直面した青年の様子を退屈しない描き方で見せてくれる。腕を切り落とさないと脱出できないのだが、映画を見て感じるのは一日一日を大切に前向きに生きたいということだ。非常にリアルで過酷な描写もあるけど、ユーモアとポップな音楽で楽しいシーンもある。まさに必見の映画だ。

冒頭の山行準備をアーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)は、非常に慌ててやっている。何を急いでいるのか、水を入れながら他のものをバックパックに詰め込む。妹ソニア(リジー・キャプラン)から母に連絡するように電話があっても、留守番電話のままにしている。戸棚に手を伸ばしてもう少しで、品質の高い万能ナイフがあったのに中国製の粗悪品を入れてしまう。さらにユタ州のブルー・ジョン・キャニオンに向かう途中で、夜にも関わらず集団で走行する自転車レースの人々とすれ違う。それらのすべてが、彼の単独行動の性質を浮き彫りにしている。

駐車場に車を止めて一寝入りして、土曜日の朝からマウンテンバイクで音楽を聴きながら走り出す。せっかく自然の中に来ているのに、音楽を聞いている。調子に乗っていると、1回転ぶ。でもすぐに起き上がり、走り出す。徒歩になってしばらく行くと、女性二人組みが道に迷っているのを見つける。親切に道案内をして、地底湖にダイブする遊びまで紹介する。このエピソードが後々の物語にきいてくる。女性達とは、日曜日にパーティーで会う約束をして別れる。

でも、彼女達と楽しく過ごすことはできない。ルンルン気分で歩いていたら、台地のくぼみにあった500kgの岩が落ちていっしょにすべっていく。止まったと思ったら、右腕の手のひらが壁と岩の間に挟まれてしまう。水は650ccしかなく、食料も非常用のものだけだ。ロープや岩登りの金具も最小限しかない。岩を砕こうとしても、中国製では全く不可能だ。ところが本人は、ビデオカメラやデジタルカメラを持っていて、テレビ番組風に録画して余裕を見せる。

日曜日がすぎて、月曜日になり職場の同僚が不在に気がついても警察が動くのは一日あいた水曜日からだ。また、母に電話もしなかったので誰も行き先を知らない。映画の半分以上の時間は岩にはさまれた状態のシーンだが、過去の思い出や彼女との別れや今までの生き方を振り返る描写が続く。これが実に効果的だ。タフなヒーローを気取っても、人は一人では生きていけない。誰かに弱さを見せてもいいのだ。実際のアーロンは、その後結婚して子供ができてまた山登りをしているという。生きる勇気に満ちたすばらしい映画だった。



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