大鹿村騒動記

長野県下伊那郡大鹿村で全編ロケをして作られた村歌舞伎と、そこに住む村民の騒動をおもしろおかしく描いた作品だ。村歌舞伎の「六千両後日文章重忠館の段」では平家の落人と関わりを持つものが主人公である。この映画では、村から駆け落ちした二人が初老になって村に戻り村で落ち着くまでが描かれている。村歌舞伎の主人公景清(原田芳雄)は頼朝を討つことが不可能だとわかると両目をつぶすけど、痴呆になって戻ってきた貴子(大楠道代)たちが村に受け入れられるまでを描いている。歌舞伎のあらすじと映画の物語がしっかりとシンクロしている。阪本順治監督・企画・脚本の手腕がすばらしい。

原田芳雄・大楠道代・岸部一徳・松たか子・佐藤浩一・石橋蓮司・小野武彦・でんでん・三國連太郎などのベテラン俳優の存在感が、すばらしい。特に大楠道代は痴呆になった場合と正気に戻った場合を演じ分けているのがすごい。歌舞伎の最中の台詞は理解するのが難しいけど、瑛太演じる回り舞台の回し手がしっかりと解説してくれる。性同一障害の雷音(富浦智嗣)の役名が、貴子や村人たちを目覚めさせる台風を象徴している。そのように考えると、この映画で付けられている役名はそれぞれの人物造形と合致している。

リニア新幹線のルートはもう決定していると思ったので、ロケしたのは少し前だと思う。村人たちがその受け入れで会議をしているが、いかにも土建国家をユーモラスに描いているので笑ってしまう。風祭善(原田芳雄)は「シカ料理店」を経営している。夏場の観光シーズンのためにやってきたアルバイトは、女みたいな男の雷音だ。いよいよ店の準備ができたと思ったら、18年前に出て行った妻の貴子といっしょに駆け落ちした治が戻ってくる。そして、「貴子が痴呆になったから返す」と言い出す。

まだ離婚届に判子を押していない善は、確かにまだ戸籍上は夫婦だが簡単に受け入れられるわけがない。貴子は食堂の2階で寝泊りすることになり、金のない治は旅館を経営する一夫(小野武彦)に雇ってもらう。この辺のやり取りが大変におもしろくて、ゲラゲラ笑ってしまった。善は痴呆でウロウロする貴子をどうしようか頭がいっぱいになって、歌舞伎ことを考えられない。本番まで5日しかないのに、一平(佐藤浩一)が交通事故で舞台に出られなくなってピンチを迎える。すると、貴子が昔善と結婚するきっかけになった女性の役の台詞を覚えていた。村人達は、貴子を代役にして本番に備えることになる。

台風が来た夜に貴子が正気を取り戻して行方不明になったり、芝居中に景清を演じた善に治が黒子で話しかけてきたり貴子も「許してもらわなくてもいい」と発言したり、ドタバタ騒動が続く。これはおもしろくてほんとうに楽しい映画だ。人間少しくらい痴呆が出ても、人生を諦めてはいけない。きっとどっかに受け入れてくれる場所がある。どくに大鹿村のような昔の伝統が残っている村は、貴重な存在だ。



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