はじまりのみち

名匠木下恵介監督生誕100周年記念映画として、原恵一監督が映画化した。「陸軍」が軍部に不評で監督を続けられなくなって浜松に疎開したあと、街中が空襲に会い気賀から春野町気田まで病気の母をリヤカーで連れて行く物語だ。遠州弁をしゃべる登場人物に親近感を抱くし、澤田屋旅館やトロッコ鉄道跡は筆者が行った場所だ。映画館に勤める従業員だと間違えられた恵介(加瀬亮)が便利屋(濱田岳)らと経験するエピソードを、戦後の作品にシンクロさせるエンディングが感慨深い。

ひづるしい(眩しい)、ばか(すごく)、だら(そうでしょ)などの遠州弁を普段使っている方は必見の映画と言える。当事東京から疎開して、浜松周辺に住む人が多かった。浜松の街中ではなくて、周りの市町村には多くの人が住んでいた。気賀からさらに山奥に行けば確実に安全なのは明らかで、相当の余裕があったということだ。木下家は伝馬町で尾張屋を経営しており、春野の森林トロッコ鉄道の奥に避難できたのだ。でも、そんな恵まれた育ちなのに、脳梗塞で倒れた母(田中裕子)の身体を心配してバスではなくリヤカーで行くのだ。相当の根性を持っている頑固者だ。

便利屋の濱田岳がすばらしい。お酒を飲む仕草やカレーを食べる仕草、旅館の娘たちにちょっかいを出すやんちゃぶりが面白い。リヤカーで行くという恵介と敬三(ユースケ・サンタマリア)に対して、「あとで吠え面かくなよ」と告げる。兄弟たちは母をリヤカーで引っ張るのだけど、便利屋は相当な荷物を引き受ける。これはかなりの力持ちだ。また、ナレーションと学校の先生役の宮崎あおいもいい。

上映時間が1時間半と短めで、物語は単純なのだ。でも、ラストの戦後の作品の紹介映像がふせんの回収になっているので懐かしさがこみ上げてくるのだ。カレーを食べるシーン、峠を登ったときに日の出に手を合わせるシーン、雨に濡れながら家族で進むシーン、旅館の娘たちと布団をしまうシーン、「陸軍」の母親が息子を追いかけるシーン。なんだかすべてのシーンが、戦後の映画につながっているように思うと涙が出てくるのだ。それは、せっかくリヤカーで疎開した母が戦後まもなく亡くなっているからだ。

野菊の如き君なりき」、「カルメン故郷へ帰る」、「喜びも悲しみも幾年月」、「二十四の瞳」、「楢山節考」、「新喜びも悲しみも幾年月」などを見たことがある方は、この映画もお勧めなのだ。佐田啓二が現在の中井貴一とそっくりで出てくる。田中絹代、高峰秀子、小林トシ子、有馬稲子、加藤剛、大原麗子などなどの有名な俳優がいっぱい出てくる。短いのに長い記憶が残る映画なのだ。

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