楽隊のうさぎ

中沢けい原作の同名小説を、浜松の市民映画館シネマイーラが中心になって映画化した。「私は猫ストーカー」や「ゲゲゲの女房」の鈴木卓爾監督が、中学生キャストを地元のオーディションで選び1年間の楽器練習をへて完成させた。中学3年間を吹奏楽部ですごした自分はまさにタイムトラベルをするような物語だった。自分は真面目が特徴だけで部長にもなってしまい苦労した記憶がある。その苦い思い出も浮かんできた。

運動部に入るほど体育が得意ではないので、自然に吹奏楽部に入った。あの頃を追体験できる映画なのだ。静岡県西部地方は自分が子供の頃、小学生もトランペットを吹く体験をした。30年前からおそらくどこの中学校にも吹奏楽部があった。この映画ではクラリネットやサックスのほかにもオーボエなどのオーケストラで出る楽器も登場する。30年前とは随分変わって、楽器も幅広くなって演奏される楽曲も高度になっている。でも、主人公の奥田克久(川崎航星)は帰宅部の典型的な少年だ。

同じ小学校から入った3人組の中では、一番おとなしいのが克久だ。サッカー部に入った二人は活発な性格で、克久は黙ってついていくタイプだ。克久にだけ見えたうさぎは、彼の心の動きを象徴している。自分の言葉で自分の気持ちを表現できないので、うさぎ(山田真歩)が踊ってくれるのだ。春に入部したばかりでは、打楽器(パーカッション)を人前で演奏できる腕前になれなかった。1年生ではもうひとりがコンテストの要員に選ばれない。なかなか厳しい措置であるのは、顧問の森勉(宮崎将)が作曲までできる素養を持っているからかもしれない。

コンテストが終わると、3年生は引退して高校受験を目指す。3年生がいなくなってみると、下級生は本気になる。誰も頼りにできないし、4月になると新入生が入ってくる。克久もパーカッションに入ってきた新入生にスティックの持ち方を指導するようになっている。2年生の定期演奏会での曲の練習で、パーカッションの花で楽団のリズムを担うティンパニーを任される。ティンパニーは音程が違う太鼓を使う。やれと言われてしばらく悩むのだけど、父(井浦新)にも背中を押される。

定期演奏会のシーンもすばらしいのだが、音楽室での練習のシーンがすごい。何がすごいかというと、画面に映った楽器の音が前面に出るのだ。どうやっているのかわからないけど、音響のいい映画館で見ないと体験できない。同じ小学校から入って不登校になった同級生を定期演奏会に誘う克久は、成長をしている。自分ではわかっていないけど、ラストシーンで「おはよう」と彼に挨拶できるまでになった。見ている最中はそれほどでもなかったけど、今思い出すとジワジワを心に響く。

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