蜩ノ記

葉室麟の直木賞受賞の同名時代小説を、小泉襄史監督が脚本も担当して映画化した。黒澤明監督の助監督を長くつとめたので、撮影手法は完璧だ。隙のない撮影方法で見事な映像に仕上がっている。江戸時代のある小藩で10年後に切腹を命じられた元郡奉行とその家族に、彼を見張るように命じられた若い侍の生き様を描いている。予告編の影響で普通の家族愛の物語だと思ったら、藩の存亡に関わる重大事にまで発展するのでびっくりした。美しい映像と無駄のない脚本で観るものを圧倒させる力があった。

雨風が激しい日に書類の執筆をしたら、檀野庄三郎(岡田准一)は隣に座っていた水上慎吾(青木崇高)の着物の家紋を汚してしまう。頭にきた水上が檀野に斬りつけるけど、反対に水上が足を切られる。家老の中根平右衛門(串田和美)から、罪を免除されて幽閉中の戸田秋谷(役所広司)の監視を命じられる。戸田秋谷は側室と不義密通をして小姓を切りつけたというかどで、10年後の切腹とそれまでの藩の歴史「家譜」を執筆する仕事を命じられた。家譜を書くことによって藩の秘密を漏洩したりしないように監視をするのが、檀野の使命だった。

切腹まで3年という段階で共に暮らすようになった檀野は、戸田秋谷がとても不義密通を行うような人物に見えないと疑問に持つ。妻織江(原田美枝子)も娘薫(堀北真希)の父親に対する接し方は、尊敬の目を持っており不義理をする父親とは思っていないみたいだ。周辺に住んでいる村人が代官の年貢の取り立てに不満を持っていて、直訴をしたいと相談すると戸田秋谷は時期が来るまで待てと制止する。政治的配慮もできる思慮の深い人間だとわかってくる。

家譜の編纂を行うということは、その藩の歴史を正式に記録するということだ。もし都合の悪い出来事があったとしても、家譜にどのように書き残すかで違ってくる。前藩主・大殿兼道(三船史郎)が直接秋谷に依頼したのは、正しく藩の歴史を記録するという役目があったのだろう。140年間あまりの藩の歴史を書いていくと、色々と疑問点が出てくる。細かい疑問をしっかりと調べようとして、檀野は松吟尼(寺島しのぶ)に面会する。やがて、檀野の不義密通は事情が違うとわかる。その真相が明らかになると、藩がお取り潰しにもなる事態だった。

今の藩主の母親は、出生に秘密があり公儀に知られてはいけないことなのだ。それらの秘密を誰にも言わないで、切腹の道を選ぶとは武士道の模範とも言える生き方だ。格調の高い物語にふさわしく、舞台設定もぬかりがない。特にすばらしいのは、秋祭りの情景だ。太い柱の境内で、披露される踊りがすばらしい。何よりも、あの太さの柱がある神社で秋祭りができるのは贅沢なことだ。四季の移り変わりの描写も写真のように保存したいほどだった。

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