世界から猫が消えたなら

川村元気の同名原作を佐藤健、宮崎あおい主演で映画化した作品だ。映画的手法で過去の出来事が変わったら未来はどうなるかをうまく表現している。タイムトラベルというよりも、主人公の頭の中で想像されていることを映像化していると考えるべきだろう。なぜから、主人公はすぐに入院しろと医者に言われており、現実的には翌日には荷物をまとめて病室にいるはずだからだ。

それを、主人公(佐藤健)が帰宅してあれこれの体験をしていると理解すると、わけがわからなくなってしまうのだ。心のなかにいる悪魔(佐藤健)に要求されて、電話や映画などを次々に世界から消していく。実際問題そんなことはあり得ないし、電話がなければ発明者のデルもいないことになる。映画がなければ、無声映画もなかったことになる。

この映画ではそこまでの細かいことに言及していない。あくまでも主人公の周辺にいる家族や恋人、友人たちがその対象になっている。電話がなければ、間違い電話で知り合った彼女(宮崎あおい)とは知り合っていない。映画がなければ、大学時代の親友ツタヤ(濱田岳)とも知り合っていない。アルゼンチンで知り合った友人にも会わないで、イグアスの滝にも行けなかっただろう。

父(奥田瑛二)と母(原田美枝子)とのエピソードも、猫がいなかったら味気ないものになっていた。だいたいが映画の物語にもなっていないのだろう。少しずるいのは、観客をもだますような描写があったことだ。父のことを一度も見舞いにも来なかった薄情者だと非難しておいて、あとで母のために猫を探していた愛情を持っていたとしていることだ。

いずれにしても、自分の過去を否定することは現在の自分も否定してしまうことになる。若い主人公にしてみれば、簡単に自分の死を受け入れられるわけがない。こういう「もしなになにだったら」という条件をつけて、自分の過去を丁寧に振り返るのは有意義だ。猫がとても可愛く描かれているので、猫好きな方はお勧めだろう。星3個。

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この記事へのコメント
こんにちは!

自分の死、過去と未来を考えることで、自分の人生を振り返って行く物語なのですね。
ものすごく深そうな物語だなぁと感じました。
ぜひ見てみます!
Posted by たかしーたかしー at 2016年05月23日 07:30
たかしーさん、こんにちは。
そんなに深刻な受け取り方は、先入観が入ってしまいます。

できれば、何も考えないで見て欲しいです。

映画のレビュー記事が一番むずかしい点がネタバレをしないことなのです。

私の文章は映画のあらすじ紹介ではなく、私のオリジナリティーの表現を目指しております。
どうか、自分なりの解釈で楽しんでください。ゴロゴロ。
Posted by とらちゃんとらちゃん at 2016年05月23日 21:44
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