殴られる男
2005年5月14日 23時08分
1956年公開、名優ハンフリー・ボガードの遺作となったボクシング界の闇を描いた作品だ。マーロン・ブランドの「波止場」の原作をした、バッド・シュールバーグ原作で、監督はマーク・ロブソンだ。二人とも硬派な作品を手がけており、本作もハードボイルド映画の俳優として知られているボギーの存在感が光っている。アメリカのボクシング界というと、マフィアとのつながりや利権がたいへんに絡んでいると考えられている。わても、そう思っていた。こんな映画を当時、よく製作して発表できたもんだと感心する。
スポーツライターのエディ・ウィリス(ハンフリー・ボガード)は、17年間記事を書いてきたが、所属していた新聞社が倒産して困っていた。そんなところへ、ボクシングのマネージャー・ニック・ベンコ(ロッド・スタイナー)から、新人のトロ・モリノ(マイク・レイン)の売り込みを頼まれる。エディはさっそくジムに行くが、南米からやってきたトロは、体が大きいだけでボクシングは全くの素人だった。無理だと断ろうとするが、ニックは俳優を売り込むのと同じだと考えろと説得される。ニックたちは、ボクシングの実力はどうでもよくて、八百長で儲けようとしていた。そして、ひと月千ドルでどうかとお金をちらつかせて来る。
一旦引き受けたエディは、デビューする場所をカリフォルニアに選んでその文才を生かしてトロを宣伝する。最初の試合で何とか勝ったものの、お客からは大ブーイングを受けた。しかし、エディの親友の記者から八百長ではないかと問われたので、エディは窮地に陥る。ニックたちの方向性を知ったエディは、汚い方法に加担するならやめると言い出す。そこで、ニックはエディの取り分を総収入の10%に上げる。
彼らはバスに乗って、徐々にアメリカを横断していく。全部八百長で勝ちながら、知らないのはトロだけという状況が続く。オクラホマシティーに来た時には、相手の選手が八百長を断ったので、エディはその選手のプライドを傷つけない方法を伝授する。それは、マウスピースの中に金網を入れて出血で試合を中止するものだった。シカゴまで来た時に、それまでアルゼンチンからいっしょに来たマネージャーが金を要求したので帰国させられた。そのために、トロはホテルを逃げ出す。
エディが、「金をもらったら、いっしょに国に帰ろう」と説得してトロは戻る。そして、ヘビー級の元チャンピオンと対戦したところ、その相手が試合のダメージで死んでしまう。次のチャンピオン戦まで6週間になった時、トロは始めて怖くなる。ニューヨークにやってきて、トロは故郷の母から手紙を受け取ってやる気がなくなる。母は、「人殺しをやめろ」というのだ。エディは、今まで隠していたことを全部打ち明ける。最初は信じなかったトロだが、コーチとホテルの部屋で対戦して実力差を知る。でも、トロは「パンチが当たったら、倒れろ」という指示を無視して、本気で戦う。この試合のシーンは、ほんとうに迫力がある。
あごの骨を砕かれたトロは入院するが、お金をもらえるものと信じていた。でも、エディは2万6千ドルを手に入れたが、トロの分は49ドル8セントだという。エディの妻ベス(ジャン・スターリング)の理解もあって、エディはトロに自分の取り分を上げてブレノスアイデス行きの飛行機に乗せる。そこから、エディとニックたちの対決が非常に緊迫感がある。これは、実際に見ないと体験できない。
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