ロード・オブ・ウォー

とらちゃん

2018年11月07日 06:08

2005年12月26日 22時05分
闇の商売の最も危険な分野に入る武器商人の実像を、実際にアンドリュー・ニコル監督が取材をして作った映画だ。原題は、「LORD OF WAR」で「戦争の支配者」という意味だろうか。多分、何人かのエピソードを組み合わせて脚本を作っているのだろう、物語につながりが少ない。それと、武器を入荷する手段をあまり紹介していないので、それぞれの紛争地帯に商売に行く場面を次々に見せられている感じがした。ソ連が崩壊して、冷戦が終結した1989年12月ごろから頭角を現し、2001年に一旦インターポールに逮捕されるまでを描いている。過去の話でも詳しくは描けないジレンマが、この映画を中途半端な印象にしてしまった。

ソ連から移住したユーリー(ニコラス・ケイジ)は高値の花だった同郷の女性エヴァ(ブリジット・モイナハン)と結婚して、仕事の内容を内緒にしたまま大物の武器商人になっていく。闇の商人として生き延びるために、「商品がどのように使われようと、関知しない」という原則を守っていく。始めはユダヤ教会に出入りをしていて、イスラエル製のUZIサブマシンガンを扱う。その後、1989年12月の冷戦崩壊と共に、親戚のウクライナの将軍に武器の調達を頼みに行く。このチャンスを逃がさないという感覚が、他の武器商人よりも優れていた。ライバルの大物商人を出し抜き、AK47カラシニコフを大量に手に入れる。ウクライナ中央政府の混乱に乗じて、在庫簿をごまかしてどんどん注文していく。

カラシニコフは、砂漠の中でも泥まみれになっても性能に関係しない。誰でも使える便利なオートマチックライフルだ。AK74からAKMに改良され、AK74となって5.45mm×39弾を採用した。ユーリーが目を付けたのは、西アフリカのリベリアやシエラレオネとか、ルワンダなどの内戦が盛んになっている地域だ。独裁者が出現して、内戦が勃発して虐殺の道具となる武器を売っていく。その武器がどのように使われようと、ユーリーは関知しない。この割りきりが、ユーリーの命を救っていた。

弟のヴィタリー(ジェレット・レトー)を片腕として使うが、麻薬中毒になったのでお金を掛けて更生させてやる。でも、敵ばかりになった状況に再び仕事を手伝わせて、修羅場に連れて行き破滅させてしまう。また、南フランスのホテルを貸しきって口説いた妻エヴァには、仕事のことを秘密にして隠し通す。ついには、インターポールのジャック・バレンタイン(イーサン・ホーク)刑事が追い詰めて、妻に接触してくると妻も動揺をし始める。そして、最後には両親から関係を切られ、妻子にも去られる。

こんな犠牲を払っても、ユーリーは仕事を続ける。そして、刑事が捕まえても、上司の意向で釈放される。全くの茶番ではないか。アメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国は最大の武器輸出国でありながら、国連の常任理事国である。ということは、片方で紛争を煽っておいて、もう一方で難民救済に大金を投じている。ユーリーの家族に降りかかった災難など、恵まれたお金持ちの不幸でしかない。

わては、この映画を見ていてなんという茶番が世界で行われているのかと思った。ベトナム戦争で活躍したM16は、コルト社にライセンスが移る。その後M16は、ベルギーの国営銃器メーカーFN社やアーマライト社(M15)、ナイツアーメント社(SR-15)、ブッシュスター社(XM-15)などで改良型が生産される。それらの企業は、多国籍企業でありどの国でも商売相手にすることができる。ルートはいくらでもあるのだ。ユーリーという最強の武器商人は、一つの駒でしかない。わてはこの映画を見ていて、現実の世界で起こっている戦争について考えると、腹が立ってきた。怒りも感じる。ユーリーが使った方法など世の中に知れ渡っても、産軍共同体は何のダメージも受けないのだ。

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