THE 有頂天ホテル

三谷幸喜脚本・監督で、豪華キャストで作り上げた一つのホテルを舞台にした群像劇だ。笑いあり涙ありの大サービスの映画で、20人以上の登場人物を一つの物語の中に収めた脚本家の手腕は秀一だ。1930年代に公開されたクレタ・ガルボの「グランド・ホテル」や、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズの「スイング・タイム(有頂天時代)」を大いに意識したオープニングとエンディングになっているが、お話の内容は三谷幸喜オリジナルだ。舞台のような緊張感を出すために、4分くらいの長回しが多く使われている。観客は見ていて楽しいが、演じる方はさぞたいへんだったと思う。実に楽しい映画なので、是非映画館で見てストレス発散して欲しい。

東京都内のホテル「ホテルアバンティ」は、昭和26年創立の客室数354室の中規模のホテルで最高級のサービスを提供していた。そんなホテルの大晦日、カウントダウンパーティーが始まる2時間前に迫っていた時刻に物語は始まる。総支配人(伊藤四郎)の考えているのはパーティーのことだけで、実際の実務を取り仕切っているのは副支配人の新堂平吉(役所公司)とアシスタントマネージャーの矢部登紀子(戸田恵子)だ。もう一人の副支配人の瀬尾高志(生瀬勝久)はただうろうろしているだけで、役に立たない。ベルボーイの只野憲二(香取慎吾)は、歌手になる夢を諦めて田舎へ帰ろうとしていた。また、客室係りの竹本ハナ(松たか子)は国会議員の武藤田勝利(佐藤浩市)の愛人だったが、今はシングルマザーとして頑張っている。

そんな大晦日のホテルに、汚職事件でマスコミに追われている武藤田が逃げ込んでくる。また、新堂の元妻堀田由美(原田美枝子)が10年ぶりに姿を見せる。彼女は現在の夫堀田衛(角野卓造)を連れてきていたが、新堂はホテルで働いていることを言い出せない。ホテル内をウロウロしている高級コールガールのヨーコ(篠原涼子)は、ホテルの外に追い出されてもなんとかしてもぐりこんで来る。カウントダウンパーティーの余興に呼んだ芸能プロの連中は、変なやつばっかりだ。腹話術師の相手役のアヒルは逃げてしまうし、奇術師の相手役の女性は恐怖を感じて消えてしまう。また、桜チェリー(YOU)は自分の変な芸名に幻滅している。

その内に、マスコミの関係者が国会議員の武藤田を追いかけてホテルに押しかけてくる。また、垂れ幕業者の持ってきた「謹賀新年」と書かれているはずのところに、「謹賀信念」と間違えて書かれてあった。そのために、結婚式の名札しか書いたことのない筆耕係り(オダギリジョー)が引っ張り出される。そして、大物演歌歌手の徳川膳武(西田敏行)は、チェックインした後に翌日の公演に怯えて死のうとする。また、謎の大金持ちの坂東健治(津川雅彦)は愛人と手を切ろうと、息子に交渉を任せていた。

もはや収拾不可能かと思われた滅茶苦茶な状態になって、お話がどんどん変な方向に転がっていく。そこには、笑いあり涙ありの大サービスだ。「笑いの大学」ほどの緊迫感や密度はないが、誰でも楽しめる作品になった。お正月の笑い初めには、ぴったりの作品だ。映画館を出る時は、幸せな気分になっている。ラストで、YOUが歌う「If My Friends Could See Me Now.」が意外にうまいのには驚いた。


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