嗤う伊右衛門
京極夏彦の「嗤う伊右衛門」原作、蜷川幸雄監督で2003年に製作された映画だ。もちろん、元々はあのお岩さんの「四谷怪談」がもとになっている。歌舞伎作家の鶴屋南北が書いた「東海道四谷怪談」が、一番有名でそれがほとんどの漫談や映画・歌舞伎の原作になっている。しかし、鶴屋南北が書いたのはお岩さんが亡くなってから100年後のことで、それ以前の話としては作者不詳の「四谷雑談」がある。
「四谷雑談」は、四谷の町にあった与力伊藤喜兵衛・同心秋山長右衛門・田宮伊右衛門の家が、醜い顔になったお岩の祟りによって滅亡するというお話だ。だが、一方ではお岩さんが良妻賢母であったという説もあり、真相は明らかではない。この映画は、「四谷雑談」ともとに小説を書いた京極夏彦の世界を映画化したものである。
さて、映画のお話は、不始末で切腹を命じられた父親を介錯して浪人になった境野伊右衛門(唐沢寿明)が、御行乞食の又市(香川照之)の紹介で、民谷家の婿になるところから始まる。伊右衛門は、無口で己の与えられた境遇に不満を言うことなく質素に生活をしていた。一方、民谷岩(小雪)は自分の考えを曲げない女性でしかも美しく、江戸時代では異色の存在であった。
筆頭与力伊藤喜兵衛(椎名桔平)は、岩の若い頃に自分の物にしようと言い寄ったが、岩に断わられ怨みを持っていた。そして、女を囲い、酒池肉林を楽しむとんでもないやつだった。女が不要になれば、部下や知り合いに押し付け簡単に捨ててしまうのだ。
民谷家の婿になった伊右衛門は、舅に筆頭与力の伊藤にだけは気をつけるように言われる。お岩と伊右衛門は、最初けんかばかりしていて仲良くなれないが、徐々に心を通わせていく。
また、伊右衛門が長屋に住んでいた頃の隣人直助(池内博之)は、妹を伊藤に乱暴されて自殺をしたことにショックを受ける。伊藤は、お岩と伊右衛門が仲良くなっていることが気に入らず、「伊右衛門がお勤めの最中に不貞を働いている」と嘘を言い、お岩に離縁をするように勧める。お岩は騙されて、伊右衛門に何も告げず家を出て行く。お岩は、伊右衛門の幸せだけを願っていたのだ。
そして、伊藤は自分の子供を孕んだお梅(松尾玲央)を伊右衛門に押し付ける。それでも、伊右衛門は文句一つ言わず、生まれた子供を自分の子供として育てる。しかし、伊藤は五の日ごとにお梅のもとに通い密会を繰り返していた。伊右衛門は、その間赤ん坊を連れて夜釣りに出かけていた。
その一部始終を見ていた又市は、真相をお岩に告げる。お岩は、「なぜ黙っていてくれなかったのか。なぜ知らせたのか。」と叫び気が狂ってしまう。伊右衛門も赤ん坊をお梅が殺したことを知り、岩との愛こそ自分にとって真実の愛だと悟る。
そこから、お岩と伊右衛門は真に結ばれる。彼らを邪魔するものは、もはや何もなく筆頭与力の伊藤も無力であった。映画の展開は、原作の話をおさらいするようにやや急いでいる感じがする。そして、ラストの現代の東京に俯瞰が移されるのは、賛否両論だろう。わてとしては、伊右衛門とお岩の抱き合った姿から、俯瞰して宇宙へ飛んで欲しかった。映画の出来は、まあまあといったところか。
監督としては、現代の女性へのメッセージの意味を持たせたかったのだろう。気持ちはわかるが、そこまでしなくても観客は理解できる。やりすぎだ。脚本ももっとスリムにできたはずだ。
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