グリーンブック

1960年代に天才黒人ピアニストと白人の運転手が差別が合法の南部を演奏旅行をするロードムービーだ。単なる黒人と白人の対立からの友人になる物語かと思ったら、巧みな脚本により深い人間ドラマになっていた。今年のアカデミー賞で作品賞・助演男優賞(マハラーシャラ・アリ)・脚本賞を受賞した。黒人の方が博士と呼ばれるインテリで、白人ががさつな元用心棒という組み合わせも絶妙である。鑑賞後に大満足して劇場を出られることを保証する。

まだJFKが暗殺される前、大統領は「人が何かしてくれるのを待つのではなく、自分が何をできるのか考えよう」と演説した。ドクター・ドナルド・シャーリー(マハージャラ・アリ)は人種差別が残る州を演奏旅行して、少しでも差別を少なくしようという目的で旅に出ようとしていた。そのための運転手は白人で問題解決能力が高いトニー・リップ・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)が最適だった。クラブ「コパカパーナ」の用心棒をしていたトニーは即採用される。粗野で人種差別者ではあるけど、家族を人一倍愛している男だ。それが、ドクターに気に入られての採用だろう。

運転手のトニーに渡されたのは、黒人が安全に南部を旅できるガイド「グリーンブック」だった。当時の南部は、黒人のトイレが屋敷の外の小屋だったり、夜間外出禁止が法律だったり、黒人のつける職業は貧しいものだけしかない状態だった。州の法律でそのように決まっているからどうしようもない。そんな南部に演奏旅行をするのだから、臨機応変に修羅場をくぐり抜け腕っぷしも強いトニーが必要だったのだ。一番ひといのは、演奏するレストランで黒人は食事ができないというものだ。

ドクターはトニーに、とくかく冷静に対応して怒らないようにしろと言う。雑貨屋の石をちょろまかそうとしたら、棚に戻せというほど厳格に言われる。ピアノはスタンウェイにしろと言われて、それを忠実に守る。最初はトニーが文句ばかり言われていたけど、ドクターが無茶をすると今度は自分のそばから離れるなと言い返すようになる。外見は黒人でも中身は教養あふれる紳士のドクター、それに対して白人でも粗野で乱暴者のトニー。その対照的な二人が徐々にお互いの至らないところを補うあうようになる。それは友情である。

この映画は60年も昔の出来事なんだけど、現在と共通する普遍性を持っている。規則だからそれを絶対に曲げようとしない警官、習慣として定着しているから無理難題を押し通す人々。自分と違う肌・趣味嗜好の者を排除しようとする意識は、今も残っている。それらの思い込みから開放されて、クリスマスのニューヨークへ帰る経緯が実に爽快な終盤になっていた。自分と違うものを排除しようとする現在のアメリカで、映画人がそれは違うと主張している作品である。満点の出来だ。

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