私は死にたくない

2005年7月14日 16時30分
1958年公開、名匠ロバート・ワイズ監督・スーザン・ヘイワードがアカデミー賞主演女優賞を受賞した傑作だ。ロバート・ワイズといえば、61年の「ウエストサイド物語」や65年の「サウンド・オブ・ミュージック」を監督して、1966年アーヴング・サルバーグ賞を受賞した名人監督だ。

1954年の出来事だろうか、前科があったために殺人事件の共犯者として捕まえられて、ずさんな捜査や決め付けから死刑判決を受けて、無実を叫びながらガス室に送られたバーバラ・グレアムの悲劇を描いた映画だ。悪の仲間にはめられて、警察側の決め付けた操作方法や証拠のでっち上げ、当局側の面子などのために死刑になった不運な女性の心の叫びをスーザン・ヘイワードは力演している。

バーバラ・グレアム(スーザン・ヘイワード)は、売春や偽証罪で懲役1年の刑を終えて、サンフランシスコで5年間の保護観察処分を受けて釈放される。もう帰ってくるなという女性看守の言葉を守り、ヘンリー・グレアム(ウェズリー・ラウ)と結婚して男の子を産んで幸せだった。ところが、夫はギャンブル好きで稼ぎを彼女から巻き上げてしまった。その日も口論をした上、夫は家を出て行く。バーバラは、昔の仲間エメット(フィリップ・クーリッジ)とジャック(ルー・クラグマン)のところに転がり込む。二人の男は歓迎するが、雑貨店の店主モナハン夫人を殺害して警察から追われている最中だった。

夫と口論をした夜に、彼らは犯行を犯したのだが、バーバラが仲間に入ってきたので彼女に罪を押し付けようとした。簡単に警察に包囲され、三人は捕まってしまう。警察が大嫌いなバーバラは、捜査に非協力的で悪態をつく。すると、警察側も新聞記者も彼女が犯人に間違いないと決め付ける。バーバラは何で捕まったのかわからないので、警察に話すことは何もないのだが、それがかえって反感を買う。そしてアリバイを証明する夫は、どこかに蒸発していないし、今更彼に助けを求めることは考えもしなかった。

裁判が進行する段階で、刑務所仲間からアリバイ工作を持ちかけられそれが検察側の罠だったこともあった。裁判は検察側の思い込みと世論の思い込みもあって、陪審員たちは死刑を宣告する。犯罪心理学の権威カール・パームバーグ(セオドア・バイケル)や新聞記者のエド・モンゴメリー(サイモン・オークランド)が、彼女の力になろうと運動をする。精神鑑定をしてみると、バーバラには道徳的基準がなく、強迫観念的な嘘つきであることがわかる。また、暴力を嫌悪していることもわかる。そして、エメットとジャックが彼女を主犯格にして、死刑を逃れようとしていると見抜く。でも、再審は却下される。

死刑が執行されるサンクエンティン刑務所に移送されてから、メグ(ヴァージニア・ヴィンセント)が子供を連れてきてくれるが、バーバラは別れを言う。硫酸の液体と青酸ナトリウムの固体を混合させて、青酸ガスを発生させる方法で死刑が行われる。知事との直通電話が何回か鳴り、執行が30分とか15分とか延期されるのだが、この辺になるとリアルタイムの恐怖が感じられる。牧師から聖ユダのお守りをもらう。その意味は、不可能を可能にするという。「命乞いはしない」と最後まで誇り高いバーバラは、しっかりとおしゃれをしてハイヒールを脱ぐ事を拒否してガス室に入る。最後に牧師に言った言葉は、「私は殺していない」だった。

なお原題は、「I WANT TO LIVE!」(私は生きたい!)である。どこの国でもあったことなのだが、これほどひどい冤罪事件は悲劇的だ。政治家や検察側の面子や世論の思い込み、科学的な証拠なしで判決をしてしまう裁判制度、ガス室の周囲を取り囲む見届け人たちの醜さなど、まるで西部開拓時代の私刑の首吊りと同じだ。ジョニー・マンデルのジャズ音楽が、乾いた空気を感じさせ不気味だ。何回も見たい映画ではないが、一度は見ておくべきだろう。



同じカテゴリー(2005年映画)の記事
殴られる男
殴られる男(2018-11-05 16:53)

ALWAYS 三丁目の夕日
ALWAYS 三丁目の夕日(2018-11-02 22:37)

私の中の消しゴム
私の中の消しゴム(2018-10-24 23:38)

ワイルド・スピード
ワイルド・スピード(2018-10-24 23:23)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

写真一覧をみる

削除
私は死にたくない
    コメント(0)