Dr.パルナサスの鏡

テリー・ギリアム監督・製作・脚本で、バットマンシリーズの「ダークナイト」でオスカーを獲得したヒース・レンジャー主演で送るファンタジー・ミステリーだ。ロンドンでの街中のロケを終えた時点でヒースが不慮の事故で亡くなったので、完成しない可能性も出た。でも、彼の友人ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルが、鏡の中で繰り広げられる想像上の役柄を演じわけることで完成した。悪魔と取引をするというキリスト教的な世界観が、非常にわかりやすく描かれている。ただ、好き嫌いが別れる表現方法なので、万人向けの映画ではない。

2007年のロンドンに、なぜか馬で移動する旅芸人の一座がやってくる。ドクター・パルナサス(クリストファー・プラマー)が率いる一団には、娘のヴァレンティナ(リリー・コール)と曲芸師のアントン(アンドリュー・ガーフィールド)と背の低いパーシー(ヴァーン・トロイヤー)がいた。彼らが演じる出し物は、鏡のような幕をくぐるとその人間の願望が描かれるという不思議な”イマジナリウム”というものだった。パルナサス博士は、いわば究極の占い師という存在で人間が何を考えているか見抜いてしまうという能力を持っていると考えられる。

下町の裏通りにしか登場しないので、一座の稼ぎは非常に少ない。ある日の夜、橋の上から首を吊っている記憶喪失の男性(ヒース・レンジャー)を助ける。なんとか屋台の物入れに放り込んで、帰る。すると、もうくたばってしまったと思われた男性が生きていて、名前も職業も思い出せないことがわかる。心優しい娘のヴァレンティナやアントンは、世話をしてその男性をジョンを呼ぶ。

ジョンは最初一座の役に立たない。何しろ記憶喪失なので、仕方がない。ところが、ある日地面に落ちていた新聞紙を拾って、それに自分の写真と名前(トニー)が出ていたので記憶を取り戻す。でも、それは一座のメンバーには秘密にしておく。座長の博士は不老不死の体を手に入れて、1000歳だという設定だ。なぜそれが可能になったかというと、悪魔Mr.ニック(トム・ウェイツ)を取引をしたからだという。

さらに博士は、老人の体になってから若い女性に恋をして再びニックと取引をしていた。それは、若い体を手に入れるかわりに、自分の娘を16歳の誕生日に差し出すというものだった。父親である博士は一座のメンバーになかなかそれを打ち明けることができないし、記憶を呼び戻したトニーも自分の正体を見破られたくない。

Dr.パルナサスの提供する”イマジナリウム”の世界は、子供にとってはゲームの世界であったり、ブランド物で着飾った婦人にとっては華やかな社交界の世界でもある。また、出世や金儲けが好きな人間には、雲まで届くような梯子が並んだ世界にもなる。人間の本性が出てしまうのだが、興行として実行する場合は望む夢が見られる。

でも、映画の展開はそうなっていないのが肝だ。トニーの本性がだんだん明らかになるにつれて、ジョニー・デップからジュード・ロウ、そしてコリン・ファレルへと鏡の向こうの世界での風貌が変わっていく。もちろん、トニー自身の性格付けも徐々に変化していく。その変化の様子が、トニーだけでなく博士自身の心の弱みも暴いてしまうのだから恐れ入った。何回見ても飽きないくらいに、映像表現が凝っている。映画好きな方には、是非お勧めする。

ちなみに、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの三人のギャラすべては、ヒース・レンジャーの娘マチルダに寄贈されることになっている(IMDBより)。父の死亡時2歳の幼子だったマチルダに、彼の記憶はないだろう。でも、父親の友人のおかげで遺作の映画が完成し、父の姿をスクリーンで見ることができる。マチルダには悲しいことなのだが、庶民には少しうらやましい。鏡の向こうの撮影は、すべてバンクーバーで行われた。最後に、エンディングクレジット終了後に携帯電話が鳴るのでその音を聞き逃さないように。



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