ゴスフォード・パーク

日本では2002年公開の「ゴスフォード・パーク」を、NHKBS2で見た。アカデミー賞脚本賞や数々の映画賞を受賞したらしいが、すごい豪華な映画だった。登場人物が20人以上いて、それぞれがしっかりと役割をもっているというグランドホテル形式の映画だ。群像劇というのだけど、イギリス貴族とその使用人たちの悲喜こもごもの物語がまるで交響曲のように描かれている。こういう映画を、いい脚本の作品というのだろう。

1932年11月というので、世界恐慌が起きて経済的混乱が少し収まり、政治的な不穏さが世界に広がる時代だと思う。スコットランドの田舎町で、貴族のパーティーが開かれる。ウィリアム・マッコードル卿(マイケル・ガンボン)とシルヴィア夫人(クリスティン・スコット・トーマス)の住むゴスフォード・パークに、10人以上の貴族が招かれる。イゾベルとメイベルが彼らの娘で、それぞれに夫がいるようだ。

アメリカからやってきた映画を作っているワイズマン(ボブ・バラバン)とその従者のヘンリー・デントン(ライアン・フィリップ)が、また一癖持っていておもしろい。シルヴィアの姉だと思うが、コンスタンス・トレンサム伯爵夫人(マギー・スミス)がすばらしい存在感を示している。そのメイドのメアリー(ケリー・マクドナルト)は、メイドになり立てで物怖じしない様子がいい。

ご主人の魔法瓶を開けるために、土砂降りの雨の中を車の外に出て、外からドアを開けて魔法瓶を開ける。その映画の最初のシーンが、階級制度のしきたりを象徴している。屋敷に到着しても、貴族は正面の入り口から入り従者たちは裏口からご主人の荷物をたくさん持って入る。この徹底された区別が、中に入ると不思議に入り乱れている。このあいまいな境界線が、この映画やこの人々の物語の核心になる。

ストックブリッジ卿の従者ロバート・パークス(クライブ・オーウェン)は、従者にしては落ち着き払っているし、教養もある。どこかなぞめいた部分がある。メイドや召使や従者たちは、それぞれのご主人の名前で呼ばれる。誰がどういう役割を持っているかが重要であり、彼らが誰であるかは問題ではない。そして、寝るのは1階の相部屋にであり、ご主人たちは2階より上の客間ですごす。1階の人々は食事時間が20分と決められていて、休むのはご主人たちが寝てからだ。

二日目には男性たちは狩猟に出かけて、女性たちは留守番をしている。広い猟場でキジを鉄砲で撃ち、猟犬がたくさんいる。一番の金持ちであるマッコードル卿は娘婿に投資した金を回収しようと言い出したり、なにやら不穏な空気が流れ始める。ハリウッドの映画人ワイズマンが、こういう屋敷で殺人事件が起きる映画を考えていると言い出す。それから、数時間後、何者かによってマッコードル卿が殺されてしまう。

すぐに警察がやってきて現場の検証と関係者の事情聴取が行われる。でも、この映画の目的はその事件の解決ではない。この屋敷の主がどのようにして財産を築き、昔経営していた織物工場で何をしてきたのかがだんだん明らかになっていく。その真相は、悲しくて残酷で美しくもある。終わり方も静かにフェードアウトするような感じで、犯人逮捕とか野暮なシーンはない。すばらしい脚本だと思う。これは、DVDで何回も見たい映画の一本になった。



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