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「K-19」のキャスリン・ビグロー監督が、2004年当時のイラク戦争を舞台にしたアメリカ陸軍の爆発物処理班の隊員の死と隣り合わせの日常を描いた緊迫感いっぱいの映画を作った。テロとの戦争ということでイラクに侵攻したアメリカ軍は一応勝利したのだが、首都バクダッドを中心に自爆テロに悩まされた。その最前線の様子をドキュメンタリーのように映像化しているので、2時間を越える上映時間が長くない。むしろ、あまりの映像の密度に見終わった後に疲労感を感じた。

2003年から始まったイラク戦争で、アメリカ軍らはすぐに首都バグダッドに到達する。イラク政府軍は崩壊して、大量破壊兵器の捜索が始まる。2004年に入ると、占領政策が始まる。この映画は、その占領作戦が始まってからのアメリカ軍の物語だ。フセイン政権を倒したけれど、イラク国民の反米感情は日に日に高まっていく。その最前線で仕掛けられた爆弾の処理は、もっとも過酷な任務だった。

バグダッド郊外のビクタリー基地を本拠にするブラボー中隊には、もっとも過酷な任務の爆発物処理班がいた。専門家の一人が爆死したので、ウィリアム・ジェームズ2等軍曹(ジェレミー・レナー)が配属される。彼の部下は、サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッ技術兵(ブライアン・ジェラティ)がいた。任務明けまで38日という限定された期間で、ジェームズは自分流の規則を無視したやり方で爆発物を処理していく。

普通は遠隔装置で操縦できるロボットを使うが、ロボットが引っ張っていた台車が故障してしまう。そこで、ジェームズは防護服を着てロボットを使わないで処理してしまう。一人が爆弾の近くにいると、護衛する役目の二人も爆弾に接近する。さらに、周辺には一般人にまぎれた反乱軍がいるかもしれない。反乱軍でなくても、イラク人は言葉の壁で信用できない。

砂漠の真ん中で敵だと思った人間が実は味方で、800m以上遠方から狙撃されるシーンがまるでその場にいるような臨場感だ。800mの狙撃というのは、しっかりと二脚で支えて7.62弾などを使う。何倍かのスコープが付属していて、着弾位置を確認するスポッター(観的手)が指示を出す。友軍と合流したジェームズたちは、サンボーンが狙撃手となりジェームズが観的手を担当する。双眼鏡でやっと見える距離から狙う敵もすごいけど、顔が埃まみれになっても動かずにライフルを構えるサンボーンがすごい。弾装に血がついてそれをふき取るのが、まさに現場取材の賜物だろう。

さらに、人間の体内に爆弾を仕掛ける反乱軍の執念はなんだろう。DVDの売り子だったベッカム(クリストファー・サエフ)が、その人体実験の犠牲になったと思い込んだジェームズの悲痛な思いが痛いほど響いてくる。あまりの恐怖で、感覚がおかしくなるジェームズの心境は人間の精神を破壊してしまうと思う。こんな映画の脚本を書いたマーク・ポールや監督したキャスリン・ビグローは、なんという根性をしているのか。やっぱり、この映画はアカデミー賞を獲得するべきだと思った。娯楽作品ではないので、あまりお勧めできない。芸術性は、きわめて高いけど。

3月12日追記。アカデミー賞が発表になって、作品賞・監督賞など主要部門を獲得した。ご都合主義の全くない映画だけど、ドキュメンタリータッチのハードな作品だ。これから見る方には、アメリカの人々がなんでこれを一番にしたのか考えながら見て欲しい。そういう意味では、必見だと言える。



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この記事へのコメント
はじめまして。

ジェレミー・レナーが演じる軍曹は、爆発物を解体する作業に、自分の生きる価値を見つけてしまって、家庭や家族のいる故郷に自分の生きる価値を見つけられなかったところに、人間の悲しさを見ました。

異国でテロリストと戦うことの緊張感も、うまく表現されていた気がします。
Posted by naotomo at 2010年05月02日 02:13
naotomoさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
見事な映画でしたね。
こういう映画に当たると、うれしいです。ゴロゴロ。
Posted by とらちゃん at 2010年05月02日 16:49
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