王妃の紋章

チャン・イーモウ監督が、唐滅亡後の中国・五代十国時代のある王家の盛衰を映画化した。チョウ・ユンファとコン・リー主演で、重厚でかつ壮大なドラマになった。

一つの宮殿内での物語が中心だが、戦闘シーンは人民解放軍の人海戦術を使って大迫力だ。小国ゆえの悲しさが、画面を通じてにじみ出ている。さすが、チャン・イーモウだ。

王家の人間は、自分の権力保持に全精力を傾ける。彼らに従っている一人一人の豆粒のような民衆は権力者に逆らえないが、権力者が変われば従う人を変えるだけでいい。実は、中国の庶民の方が権力者よりもたくましいのかもしれない。

権力者は己の力を守るために、悲劇を背負う。コン・リーの演技が特に光っている。ゴロゴロ。

2008年4月29日 14時40分
「活きる」(94)、「初恋の来た道」(99)、「あの子を探して」(99)、「HERO」(02)、「LOVRES」(04)の監督としてと知られ、北京オリンピックの開会式の総合プロデューサーとしても有名なチャン・イーモウ監督が2年前に中国で公開した作品だ。なぜか日本での公開は、オリンピックの開催に合わせて2008年となっている。興行側の思惑は話題性を狙っているのだろうが、見ている方は中国の国内事情の裏がわかるようで興味深い作品だ。「外見がいくらよくても、中身は腐っている」という言葉が中国にあるそうだ。本作は、まさにそれを実証したような作品だ。

唐が衰退したあと、五代十国時代をいう歴史年代がある。玄宗と楊貴妃の絶頂期は750年ごろ終了する。そして、唐は混乱期に入り874年に黄巣の乱が起きて、バラバラ状態になる。五代十国時代は907~960年をする説が、定説になっている。でも広い解釈では色々な説がある。わてが思うには、一応この混乱期を時代背景にしているが、描いている内容は現代の中国の政治情勢そのものだと思う。もっと極端なことを書くと、監督がプロデュースするオリンピックの開会式の映画版だという解釈もできる。

黄金の一族の王(チョウ・ユンファ)は、対立国から迎えた王妃(コン・リー)との間に長男祥(シャン)王子(リイウ・イエ)・次男傑(ジエ)王子(ジェイ・チョウ)・三男成(チョン)王子(チン・ジュンジエ)に恵まれていた。しかし、王妃は精神的に不安定で王から薬を処方されていた。その薬には少量の毒が入っていて、王妃は徐々に体調を崩していく。また、王妃は母が違う長男シャン王子と肉体関係を持ち、王に反旗を翻す機会をうかがっていた。

王は、次男の第二王子を次期の王にしようと密かに考えて、王妃一味の排除を計画している。一つの家族が重陽節で一つの食卓を囲むが、その心は全くバラバラという実情は当時の政治情勢をそのまま描いている。王の近衛兵が黒い装束で、反乱軍が黄色い鎧を着ているのは、歴史的な背景を表現している。王が平和的に王位を次の世代に引き継ぐことは、なかなか実現できず一族皆殺しということもあった。この映画でも、肉親同士の憎しみで非常に多数の兵士が死んでいく。

そして、次の権力を勝ち取ったものは何事もなかったように、民衆の前に立つ。権力者の犠牲になって死んでいく兵士や民衆たちは、ほんとうに虫けらのようだ。しかし、次の権力者が出現すると民衆はさっと仕える先を変えて、変わり身の早さを見せる。中国の職人が丹精こめて作った衣装は、豪華絢爛ですばらしい。また、戦闘シーンの人海戦術ぶりも、見ものになっている。おそらく、オリンピックの開会式もこういう感じになると思うが、もはや中国国内の腐敗振りは世界中の人が知っている。



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