第9地区

南アフリカ出身のニール・ブロンカンプが自らが脚本を書き監督し、ピーター・ジャクソンの助けで映画化した作品だ。今までのSF映画と違い、ドキュメンタリータッチのリアルな映像と全く新しい物語が新鮮だ。南アフリカのヨハネスブルグ上空に飛来した巨大宇宙船は動けなくなり、エビのような格好の宇宙人を難民として受け入れる。全く違う文明が交錯すると、当然ながら摩擦が起きる。その衝突の様子をかつての人種差別の見本だった国を舞台に描くのだから、着眼点がすばらしい。

宇宙人と宇宙船はすべて特殊効果で映像化して、その他の部分はほとんどが実写映像を使っている。特に現地の住民にインタビューをしたり、各登場人物に主人公の人となりを語らせる方法はアイディアの勝利だと思う。また、普通なら宇宙人は侵略者だったり、人類に何らかの害をもたらす。でもこの映画では、宇宙人よりも人類の一部の人間をもっと恐ろしい存在にしている。これは、逆差別という言葉があるように、欲に目がくらんだ人間のほうがやっかいだ。民間軍事産業体MNUの考えていることは、過去の歴史の権力者と同じだ。

外務省の海外安全情報にもあるように、ヨハネスブルグの治安はきわめて悪いようだ。行政区域が10区程度に区分けされているが、かつて白人が住んでいた地域とそうでない地域の格差が非常に大きい。この映画は南アフリカの歴史そのものとも言える内容で、治安の深刻さを宇宙人を使って表現しているとも考えることができる。人種差別で住む地区が分かれているときは平和だったけど、アパルトヘイト廃止後の諸外国からの流入者の増加で起きた実情をSF娯楽作品にしている。

民間軍事企業のMNUに勤めるヴィカス(シャールト・コプリー)は、エイリアン対策課のメンバーだが事務系の管轄だ。会社としては強引な印象を与えないように、ソフトな人当たりのいい人選だった。宇宙船の不時着という事故でやってきたエイリアンを第9地区に住まわせて20年、色々な問題が発生する。治安の悪化やエイリアンを搾取する人間のギャングの存在が明らかになり、宇宙人の移住が計画される。その責任者にヴィカスが任命される。

最初は法律に従い、宇宙人に同意を求めてサインを集める。そのうちに混乱状態になり、会社の強硬派が武力を使い出す。すべて南アフリカ製のNTW-20対物狙撃銃やCR-21bullpup狙撃銃、Neopup Paw-20ランチャーなどの武器が、実際に使われる。宇宙人が20年間コツコツ積み上げてきた秘密に触れたヴィスカスは、謎の液体を浴びて彼らしか使えない武器を使えるようになってしまう。

クリストファーという名前の宇宙人は、名前の語感から救世主を意味している。ヴィカスが微妙な立場に置かれてからの、迫力の戦闘シーンがすばらしい。まるで、戦争ドキュメンタリーを見ているようだ。モビルスーツも登場するので、日本のアニメファンも楽しめる。難しいことは考えないで、ヴィカスとクリストファー親子の奮闘ぶりを見届けよう。



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