東京家族。    2013年の邦画ベストワンかな

小津安二郎の「東京物語」はビデオに録画して、巻き戻したりして詳細に見た記憶がある。世界の映画史でもベストテンに入る物語を、山田洋次監督・脚本で現代の設定にして映画化した。登場人物の名前や美容院の名称もほぼ同じという設定でありながら、見事に今の日本の閉塞感を表現している。震災と原発事故、地方と都会の格差や低成長社会に入ったひずみまでもテーマになっている。笑いもあるし、涙を誘う展開になっている。2時間26分の上映時間に無駄なシーンはない。傑作を断言していいだろう。

2012年の春、瀬戸内海の小島から70歳の平山周吉(橋爪功)ととみこ(吉行和子)は、東京の西の外れで開業医をしている長男・幸一(西村雅彦)の家にやってくる。孫の部屋に老夫婦を泊めるために勉強机を移動する話まで、小津版と同じだ。長女の滋子(中嶋朋子)のやっている美容院の名前も「うらら美容院」である。子供たちは3人で、次男の昌司(妻夫木聡)が一番の心配の種である。品川駅で新幹線を降りたのに、ファイアットプンタを運転して東京駅で待っている。そのために老夫婦はタクシーで幸一の家に来てしまう。この導入部だけで、登場人物の性格がほとんどわかる。

昌司の仕事が気になる父親にしっかりと本人が説明しないので、周吉は機嫌が悪い。昌司は子供の頃から父親に怒られてばかりいたので、素直に接しられない。この描写は、今時の教育熱心な親たちを揶揄していると思う。長男が東京案内をする予定だったが、急患が出てキャンセルになる。困った子供達は、横浜にあるシティーホテルに2拍3日の宿泊を両親にプレゼントする。でも、ホテルの部屋でやることはないし、ベッドでは寝られない。さらに、夜外国人がやかましくしてホテルから帰ってきてしまう。

一泊で両親が帰ってきたので、幸一や妻の文子(夏川結衣)はびっくりする。子供達の反応を見て、周吉は教師時代の同僚の家に線香をあげに行くことにする。また、とみこは昌司アパートを訪ねて掃除や洗濯をすると出かける。とみこは、昌司と付き合っている紀子(蒼井優)を紹介されて仰天する。ごみの山の中で暮らしていると思った末っ子が彼女を作り、小綺麗な部屋で暮らしていたのだ。紀子と話してみると、じつにしっかりした娘だった。母親としては、うれしくて幸せな気分だっただろう。

ところが、長男の家に戻るととみこは階段の踊り場で倒れて救急車で運ばれて、翌日の明け方亡くなってしまう。東京で火葬して、葬式は故郷で行うことになる。父といっしょに帰るのは昌司と紀子だけで、ほかの子供達は葬式だけ来てすぐに帰ってしまう。瀬戸内の小島の風景が日本のよさを残している。紀子は周吉に気に入られて、とみこの形見の時計をもらう。周吉は一人暮らしをすることになるけど、親戚に囲まれて幸せそうだ。犬の散歩をしてくれる親戚の女の子もいる。

犬といっしょに畑仕事に行ったり、女の子が犬の散歩をしているシーンがとてもいい。自分もご近所の犬の散歩をしているので、気分がいい。

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