ゼロ・ダーク・サーティ

キャスリン・ピグロー監督とマーク・ポール脚本のコンビで、オサマ・ビンラディン暗殺までの過程を描いたドキュメンタリータッチの映画だ。「ハート・ロッカー」のときもそうだったけど、女性監督であることは全く関係なく衝撃作だ。よくここまで取材をして忠実に描いたものだと驚いてしまう。米政府関係者は国家機密漏えいの疑いもあると問題視する動きもあったが、映画の大ヒットで立ち消えになった。911の犠牲者には申し訳ないのだけど、映画を見終わって思うのは虚しい気持ちだ。ソ連侵攻でアフガニスタンにゲリラ組織を作ったCIAが、時代の流れでその組織のリーダーを抹殺する。

元々アルカイダは、ソ連の侵攻に反撃するためにCIAがアフガニスタンに作った組織が始まりだ。ソ連が出て行って冷戦が終結するとイラク戦争が始まる。クウェートやサウジアラビアが基地になって、フセイン体制が崩壊する。そこから、イスラムの人々は反米を意識する。はじめは味方だったのにすぐに敵になるのだから、たまらない。2001年9月11日の同時多発テロはその状況で起きる。CIAは今度は、自分が作った組織の後始末をするのだ。大統領も変わるし職員も変わるので、個人を恨んでも仕方がないけどそれは通じない。

いくらアルカイダのメンバーを捕まえても、2005年のロンドンや2009年のアフガニスタンの基地の爆破事件が起きてしまう。戦費も莫大になるし、CIAの経費や人員も相当注ぎ込まれる。その中に、マヤ(ジェシカ・チャスティン)という一人の女性分析官がいた。捕虜の尋問はあまりしないけど、情報を分析するプロだった。アルカイダの連絡員を追っていたけど、その人物が何年も前に死亡していたと判明する。パキスタンのイスラマバード支局の上司は、違う手がかりを探すように命令する。でも、マヤは納得しない。

パキスタン各地から場所を変えて、携帯電話による発信がされているのが気になっていた。誰か連絡員がいることは確かだけど、正体不明なのだ。それを8人兄弟だと突き止めて、マヤは執念深く調査を続ける。同僚のジェシカ(ジェニファー・イーリー)は自爆攻撃で死亡する。マヤは通勤の車を銃撃されるまでになってもやめない。そして、小さな四輪駆動車に乗る連絡員を見つける。その連絡員がたどり着いたのが、パキスタンのアボッターバードにある広大な屋敷だった。

麻薬組織かもしれないという上層部を説き伏せるまでに200日以上を費やした。ステルス型UH-60ブラックホーク2機にネイビーシールズの精鋭を乗せて、襲撃に向かう。四つの目を持つ暗視ゴーグルは本物だという。襲撃の手順も実際に行われたのにそっている。ドキュメンタリーを見ているような緊迫感だ。女子供の悲鳴がなんだかとても悲しい。その屋敷にはパソコンや書類などが多数あった。間違いなくビンラディン本人なのだろう。極力どちらかに肩入れしない演出がされているので、楽しい映画ではない。圧巻の内容だ。

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