凶悪

園子温の「冷たい熱帯魚」もすごかったけど、白石和彌監督・脚本のこれもすごい。雑誌編集者が警察も感知していない事件を死刑囚の告発をもとに取材で暴き出したノンフィクションの映画化だ。カメレオン俳優リリー・フランキーの控えめでなにげない演技がすばらしい。山田孝之演じる取材者の家族の介護問題も交えて進む脚本は今の日本の高齢化社会の問題を浮き彫りにしている。身近な問題だけに余計恐ろしい。

「そして父になる」で理想的な父親を演じたリリー・フランキーが、連続保険金殺人の首謀者”先生”をさりげなく演じている。同じ出演者の映画を連続してみると、役者の凄さがわかる。原作は新潮45の「凶悪ある死刑囚の告発」であり、文庫本になった版には詳細な犯罪の状況が描かれているという。拘置所に収監されている死刑囚須藤純次(ピエール瀧)から、明潮24の編集部に手紙が届く。上司から面会に行くように言われた藤井(山田孝之)は、最初全く須藤の言うことが信じられない。

数回通ううちに、警察にも知られていない殺人事件の首謀者が別におり、”先生”と呼ばれていてシャバで何不自由なく生きているのが許せないと聞かされる。不動産ブローカーの木村(リリー・フランキー)は地元の名士であるが、内実裏で怪しい事情がある。須藤の直接の罪状は舎弟の五十嵐(小林且弥)を射殺したことだ。その直前に須藤は先生と呼んでいる木村から、五十嵐が裏切っていると聞かされていた。ところが、刑務所に入って裁判を重ねてきてわかったのは、先生にハメられていたということだ。

本当に悪い奴は悪い素振りを見せないで、悪いことをする。先生の手口は、中小企業経営者や高齢者に多額な保険金をかけて始末する。そして、所有していた土地を転売して大儲けするというものだ。どこに有望な土地があるかは、鼻がきくのだ。目をつけられた被害者はたっぷりと保険金をかけられて、生き埋めにされたりアルコールをたくさん飲まされて殺されたりした。編集者の藤井は須藤の告白を調べていくうちに、上司の制止も頭に入らなくなる。実母の和子(吉村実子)はボケていて、妻の洋子(池脇千鶴)に世話を任せきりだった。取材に熱中するばするほど、妻の洋子との絆が離れていく。

雑誌で記事にするとともに、死刑囚の須藤からも上申書が出される。証拠が揃ったのは、アルコール依存症で肝臓を壊して入院した牛場悟(ジジ・ぶぅ)に酒を飲ませて殺した件だけだった。その事件は老妻(白川和子)と息子夫婦から先生が承諾を取ったのだ。牛場悟は小さな商店を経営しているのだけど、借金を数千万もふくらませていた。家族の気持ちとしては不謹慎なものが出てもおかしくない。編集者の母親の問題は、老人ホームへの入所で解決する。そんな方法が取れるのは幸せなのだろう。

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