人類資金

福井晴敏が映画化を前提にして書いた小説を阪本順治監督が映画化した。旧日本軍が終戦間際に隠したと言われているM資金を題材に、現代の金融資本主義に警鐘を鳴らす内容になっている。ロシアのハバロフスクや国連の会議場でロケを行った熱意は痛いほど伝わってきたけど、10兆円の資金を集めてからPDAを配布する富の再配分をもう少し細く描いて欲しかった。巨額なパワーがあれば、特定の国の景気を操作できるのだろうか。

カペラ共和国という架空の国は、読み書きもできない国民が多い。先進国ではスマートフォンが多く普及して情報化社会になっているけど、後進国では情報も伝わらない。だからPDAを配るのだという方法はいいと思う。でも、その国はなぜそんなに貧しいのか全く言及されていない。独裁政権が長く続いていたのか、国内の勢力闘争が続いていたのか、何も説明がない。情報が行き届かない国は、それを阻む原因があるはずだ。情報機器を配布するのに、反対する勢力はいないのか。

終戦間際に日銀の地下から金塊を盗み出し、金塊を隠すシーンはなかなかの見ごたえがあった。その金塊がM資金の原資になる。詐欺師の真舟雄一(佐藤浩市)は、M資金をネタにその日も騙そうとしていた。邪魔が入り仕事はできないけど、石優樹(森山未來)に呼び止められる。連れて行かれたのは、財団という組織に属する本庄(岸部一徳)とM(香取慎吾)だった。そして依頼された仕事は、「日米が共同で管理しているM資金を盗み出して欲しい」という内容だ。総額は10兆円、報酬は50億円だ。

携帯電話の普及しているのが人類の一部であって、読み書きもできない人間が多い。その読み書きのできない人々に情報端末を配布して、教育を広めたい。考え方は非常にいいと思う。では、現実はどうなのかと思う。人種の対立、宗教の対立、同じ宗教でも宗派の対立、大国の援助を受けた勢力同士の対立、などなど厳しいことがいっぱいある。アメリカが彼らの動きを察知して、カペラ共和国にテロ組織の温床があるという情報を流す。大国の言うことを信じる国々は、すぐにその情報を信じてしまう。

国連の会議場で、森山未來が行う演説は感動的だった。英語の教科書に載せてもいいような内容だった。よく頑張って映画を完成させたと思う。でも、現実はそんなに簡単ではない。多極化した世界は、もう二つに分けて考えられるほど単純ではない。アメリカだけが大国ではなく、ロシアも中国もそのほかの国も色々な影響を及ぼしている。経済だけの問題ではなくなっている。

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