超高速!参勤交代

土橋章宏の脚本を本木克実監督が映画化したユーモア時代劇だ。脚本が映画のお手本みたいにすばらしく、前半でまいた伏線を物語の進行とともに順番に回収する。大根で始まって大根で終わるという爽快感が味わえる映画だった。ただ、幕府の陰謀でたった5日以内に再び参勤交代せよと命令は、一か八かのかけみたいなもので残酷な面もある。無理難題を押し付けられてお家取り潰しになったケースも多いと思うけど、この映画では最後まで楽しく見ることができる。

亨保20年、八代将軍吉宗(市川猿之助)の治世。磐城国、現在の福島県いわき市湯長谷藩は小さい小藩だ。江戸から参勤交代で帰ってきた内藤政醇(佐々木蔵之介)は、城への道中で農民が差し出した出来のいい大根を生でかじりうまいと言う。城は天守閣などなくて、城壁に囲まれた上に屋敷があるだけだ。荷物をほどいて、後片付けをしていると、江戸から早馬がやってくる。そして、使者が言うには「藩内の金山の報告に不正の疑いがあるので、5日以内に再び江戸に来い」というものだった。

それを聞いた殿はすぐに走って行くと決断する。家老の相馬(西村雅彦)は藩で一番のアイディア自慢、剣の腕に自慢の荒木(寺脇康文)、冷静沈着な秋山(上地雄輔)、弓の名手の鈴木(知念侑李)、二刀流の増田(柄本時生)、槍が得意な今村(六角精児)の家臣を連れていく。主要な宿場町にいる番所を通るときだけ、急造の行列を作るのだ。磐城街道を歩いて行くと時間がかかるので、山の中を通ることにする。そこに、抜け忍びの雲隠段蔵(伊原剛志)が道案内をする。

老中の松平信祝(陣内孝則)は弱小藩に因縁をつけて取り潰し、利権を吸い上げることで出世を計画している。旗本や直参を丸め込むには金がいくらあっても足りないというわけだ。それもひとえに幕府の威信を守るという大義名分を拡大解釈して、忍びや公儀隠密を好き勝手に使う。雲隠団蔵が実は金目当てで途中でバックレる計画だったり、殿と家臣が別行動になったりする。

行列を立派に見せるために色々な工夫をするのが面白い。水戸藩の行列に出会ったり、飢饉のときに助けた藩の行列に助けられたり、どこかの藩の大名行列とすれ違うのに苦労したりする。笑えるネタやハラハラドキドキする事件がたくさんある。極めつけは、側室ももうけない殿が飯盛女のお咲(深田恭子)が柱に縛られているのを助けて反対に追手から匿われる。二人で逃げる様子は社会から追われる逃亡者のような共感を呼ぶ。参勤交代という制度を振りかざして庶民を苦しめる権力に対抗する姿勢がいい。

でも、将軍吉宗が老中松平信祝の所業を知っていて今回のことを許したとすると、なかなかのタヌキだということになる。
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