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園子温(そのしおん)監督が、古谷実の同名漫画を原作に脚本を自ら手がけて映画化した。ヴェネチア映画祭コンペティション部門に出品されて、主演の染谷将太と二階堂ふみがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した。「冷たい熱帯魚」も衝撃的な内容だったけど、これも非常にシリアスなものだ。東日本大震災の津波で破壊された街並みでのロケーションを行っているので、絶望の淵まで追いやられた若者の再生が現実と重なっている。間違いなく2012年ベスト邦画の一つになるだろう。

ヴィヨン全詩集 (岩波文庫)を愛読書にしている住田祐一(染谷将太)は、15歳の中学生だ。同じクラスの茶沢景子(二階堂ふみ)は住田の熱烈なファンで、部屋に彼の言った言葉を部屋に貼り付けている。彼らのクラスの教師が言う言葉は世界にひとつだけの花とか、日本の政治家が演説する内容に似て空虚だ。住田の父(光石研)は、ヤクザ(でんでん)から600万の借金を作り逃げている。母(渡辺真紀子)は貸しボート屋をしているが、息子の面倒を見ないで中年男性(モト冬樹)と蒸発する。

母がいなくなったボート屋では、ホームレスの面々が集まっている。大震災で会社を失った夜野正造(渡辺哲)、田村圭太(吹越満)と圭子(神楽坂恵)、まーくん(諏訪太朗)らがいた。金の無心に来た父は、息子に「子供のときおぼれたときになぜ死んでくれなかったんだ。保険金が入るのに。」と血のつながった親子ではない言動をする。おまけに、茶沢の母(黒沢あすか)は、娘のために首吊り台を作っている。娘の貯金箱のお金を横取りして、パチンコに行こうとする。

どうも、茶沢の家庭の設定は架空のもとだと思う。その理由は、住田と関連する物語で彼女の家庭事情が語られないからだ。住田の父があまりにも憎憎しいために、中学生の住田祐一は殺意を抱く。夜野が街中で知り合ったテル彦(窪塚洋介)の仲間になって、ヤクの売人を襲撃する。殺してしまった売人を山に埋めに行くと、今度はテル彦に殺されそうになった夜野が反撃する。父を怒りのあまり殺してしまった祐一は、「オマケ人生」を続けるためにある決意をする。それは、世の中の害悪をなる悪党を見つけ出し自らの手で殺すことだ。

祐一が狂気に走るのを景子は命を掛けて食い止めようとする。泥だらけになり、絵の具を全身に塗りたくり祐一は獲物を求めて街に出る。その街には、震災の跡形もない。震災前の日本そのものにも思える。でも、監督は彼らの環境を震災直後に設定した。両親を失い、孤児になってしまった子供達もいるだろう。また子供を失って生き残った親の世代もいるのかもしれない。それでもなお、若い二人は未来へ向かって走り出す。傑作だ。



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