戦火の馬

マイケル・モーパーゴの児童文学を原作に演劇にもされた作品を、スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化した。第一次世界大戦でイギリスから徴用されて戦地に送られた馬がたどる過酷な運命と、馬を育てたイギリスの青年と再会するまで描いている。イギリスから大陸に渡った軍馬はほとんどが亡くなったけど、もどってきた馬もいたらしい。全くのフィクションではないし、馬が主演だと考えると人間の愚かな営みが浮き上がってくる。ドリームワークスが製作してディズニー配給なので子供も見られる規定になっているが、上映時間が長い。馬の表情が変わる様子は注目だろう。

第一次世界大戦の勃発前のイギリス、地主の下で働くナラコット一家は19歳のアルバート(ジェレミー・アーヴァイン)と祖父テッド(ピーター・ミュラン)と祖母ローズ(エミリー・ワトソン)と暮らしている。アルバートの両親は南アフリカで起きたボーア戦争で亡くなっている。アルバートは両親の記憶がないくらいの年齢だろう。頑固者のテッドはサラブレットの体型の仔馬を落札してきてローズから怒られる。でも、アルバートは馬にジョーイと名づけ、名馬に育てる。

そんなとき、大戦が勃発する。1914年に始まった大戦は、イギリス・フランス・ロシアの連合国とドイツ・オーストリアなどの同盟国が戦う。戦争のやり方は、騎馬兵と歩兵が混在しているのと主要な武器はライフルと機関銃や大砲だ。小作料が払えなくなったので、ジョーイを30ポンドで売ってしまう。一家は土地を手放さないですむが、19歳のアルバートは志願してフランスの戦場に渡る。馬を徴用したニコルズ大尉(トム・ヒドルストン)は、ジョーイを自分の馬として使うことにする。

イギリス軍がサーベルを抜いて騎馬隊で突撃するシーンは、中世の戦争みたいだ。20世紀の戦争はサーベルでは戦わないと思ったら、案の定ドイツ軍が重機関銃で反撃する。その戦闘でドイツ軍の馬になったジョーイは、生き残った黒い馬といっしょに行動する。馬の世話役は動物のことを考えているけど、上官はものとしか認識していない。ドイツの若い兄弟兵が2匹の馬を連れて脱走する。馬が生き残って人間が射殺されるのは、皮肉だ。骨が弱い少女エミリー(セリーヌ・バッケンズ)と祖父(ニエル・アレストリュプ)のエピソードが少し暖かい気持ちにさせてくれる。

第一次世界大戦のヨーロッパでは、塹壕戦で多くの命と時間が失われた。毒ガスや大砲も使われたが、基本的な戦闘はライフルと機関銃だ。それに対する方法は突撃しかないというのが、多くの命を失う原因となった。生き残ったジョーイが戦車を飛び越えて、中間地帯の有刺鉄線に絡まって動けなくなる。イギリス側とドイツ側から兵士が出てきて、有刺鉄線を取り外すシーンがユーモラスでいい。アルバートとジョーイが再会するまでに色々曲折がある。最後の夕日の地平線を故郷に帰るシーンが、とても綺麗だった。



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