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無声映画といっても、音楽や効果音はしっかり入っている。登場人物の考えていることもしゃべっていることも全部わかる。これほど映画の表現の豊かさを体感できるのは、本当に楽しい。ハリウッドがモノクロからトーキーに移行する時期を舞台にしている。サイレントにこだわる男優にジャン・デュジャルダン、彼に見出されながらトーキーでもトップ女優になる女性にベレニス・ベジョが演じている。二人の演技もいいけど、犬のアギーもすばらしい。ミシェル・アザナヴィシウス監督の演出が傑出している。アカデミー賞では、作品・監督・主演男優・作曲・衣装デザインの5部門を獲得した。

一番の名シーンは、ぺピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)がジョージ・ヴァレンティン(ジャン・ヴァレンティン)の楽屋に入って彼の上着に片腕を通し抱擁しているように見せる場面だ。ぺピーの彼を想う恋心が的確にセリフなしで描かれている。ジョージはサイレントでモノクロ映画の大スターで、新作の発表でも観客に大歓迎される。その行列の最前線にいたぺピーと新聞の写真に収まり、大騒ぎになる。女優志望だったぺピーは、ハリウッドのキノグラフ社の撮影所に入っていく。

踊りができるのでエキストラで採用された彼女は、偶然主役のジョージと再会する。カーテン越しにステップを踏んでいるぺピーの足を最初に見せて、ジョージが気がつく演出がいい。楽屋に無断で入ってお互いに惹かれあった二人は、ほのかな恋心を持つ。ジョージが少し個性が必要だと、唇の横にほくろをつける。ぺピーはそのメイクをずっと続けて、だんだんスターになっていく。トーキー映画の時代になって、ぺピーの人気はますます上がっていく。

ところがプライドの高いジョージは、社長のアル・ジマー(ジョン・グッドマン)の薦めを断ってトーキー映画への出演を断る。そして、「アーティスト(芸術家)」というサイレント映画を自費で製作する。その一方でぺピーは、主演映画の新作撮影に取り掛かる。失敗したジョージは破産して、妻に屋敷を追い出される。やがて運転手のクリフトマン(ジェームズ・クロムウェル)の給料も払えなくなる。

酒びたりになったジョージは、オークションをして屋敷にあった家具や調度品を売りに出す。そのオークションには、ぺピーの差し金で買うように指示されたバイヤーだけが参加した。昔のフィルムを見ていたジョージは火事を起こして、愛犬アギーに命を救われる。入院したジョージを自宅に引き取ったぺピーは、なんとか元気になって欲しいと願っていた。でもオークションで売った品々がぺピーの屋敷にあったのを見つけたジョージは、プライドを傷つけられる。

男のプライドと女性の現実主義がぶつかり合う。でも、ラストシーンの演出では両方の長所を足してそれ以上の結果を生み出した。映画の醍醐味は、こういう工夫にあるというお手本になった。すばらしい。傑作だ。



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