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降旗康男監督と高倉健が20本目のタッグを組んだロードムービーだ。今年度の邦画の映画賞にリストアップされるのは間違いないほどの傑作になった。製作者が練りこんだオリジナルストーリーで全く無駄なシーンがなく、凡長な展開になっていない。主人公の職業が刑務官というのも物語に生かされているという脚本がすばらしい。妻を急な病で亡くした男性に無理やり旅に出させて、夫の人生の再出発を演出するその愛情がスクリーンから伝わってきて大人の鑑賞に見事に答えてくれる。年配の夫婦の観客が多かったけど、若い方にも自信をお勧めできる。間違いなく邦画ベストテンに入る。

倉島英二(高倉健)は中年になって洋子(田中裕子)と結婚した。同僚の塚本(長塚京三)がもう結婚しないのではないかと心配したほどで、本人も半分諦めていた。刑務所に歌の慰問でやってきた洋子と知り合った倉島は、慰問に来なくなった洋子と刑務所作業品即売会で再会する。そこではじめて声を掛けて二人は結婚した。慰問に来なくなった理由は、洋子の愛する受刑者が死亡したからだった。倉島は過去を聞かずに洋子を受け入れたのだろう。高倉健の存在感は、そこにいるだけで大きな器の男になっている。

遺言という形で「故郷長崎県平戸の海に散骨してほしい」と言い残されたら、まだ納骨していない骨壷を持って旅に出るしかない。しかも夫が刑務所の木工作業の指導技官で、キャンピングカーを作りかけていたという設定なのだ。飛騨高山、京都、兵庫県和田山竹田城址、北九州、門司、長崎県平戸市藩香と1200キロの旅の物語が展開される。そこで出会う人たちは、愛する人と何らかの問題を抱えている。刑務官という職業柄、人間観察力が優れているのでごく自然にめぐり合った人々の苦しみを解き明かしてしまう。高倉健という俳優のすばらしい存在感がいかんなく発揮されている。

イカ飯の実演販売の草なぎ剛を助けて車に乗せる。日本中を旅して回り、故郷の北海道にはほとんど帰らないという。子供が小さいのになぜなのか、理由は旅の途中でわかる。草なぎの同僚で年上だが仕事では後輩の南原(佐藤浩一)は、家族のことを語らないけど社会経験が豊富だ。高倉の車がエルグランドの後ろの席にキャンプ道具を積んだものなのに、口が達者な杉野(ビートたけし)は本格的なキャンピングカーで旅をしている。隙のない高倉には、放浪と旅の違いを説いたりするが杉野は車上狙いの常習犯だった。このエピソードには笑ってしまう。

一番の見所は、長崎県平戸市の散骨に向かう前に知り合いの漁師を教えてくれた南原とのエピソードだ。濱崎多恵子(余貴美子)と奈緒子(綾瀬はるか)の母子が経営する食堂で一晩泊まらしてもらい、台風が去ったあとに大浦吾郎(大滝秀司)と拓也(三浦貴大)に船を出してくれと頼みに行く。濱崎家の父親がしけで亡くなったと説明されて、奈緒子と拓也の結婚写真も海に捨ててくれと頼まれる。でも沖に出た倉島が海に捨てたのは、妻の骨だけだった。

頼まれた写真を南原に黙って渡すシーンが、涙を誘う。なぜ倉島は南原が、濱崎家の父だとわかったのだろう。鳩を使うという意味が説明されるけど、倉島の妻の手紙にも鳥の絵があったように記憶している。

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この記事へのコメント
折々TB有難うございます。先週「あなたへ」のTB頂いて、指定のURLにお返ししたのですが、当方のPCの不具合かもしれないのですけれど、そちらのTB受付ブログのTB欄が(0)のままで何も見えません。

なのでどうも届いているか?判らないので、こちらに該当記事のURLを張って投稿させて頂きました。

http://autumnnew.exblog.jp/16020906/<Something Impressive(KYOKOⅢ)>
Posted by MIEKOMISSLIM at 2012年09月12日 20:27
MIEKOMOSSLIMさん、こちらもいつもお世話になっています。TBはどうも不調のようです。申し訳ありません。
こちらもどうしたらいいか、思案中です。
わざわざありがとうございます。
Posted by とらちゃん at 2012年09月13日 14:00
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