デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく

「ボーン・アイディンティティー」シリーズ三作や、「フィクサー」の脚本を担当したトニー・ギルロイが、産業スパイを題材にした作品を作った。彼は監督と脚本を担当していて、なかなかの才能を示している。ジュリア・ロバーツとクライヴ・オーウェンの主演なので、非常にシリアスな内容にもできただろう。でも、だまされる快感を味わえて笑える内容にしたのが、洒落ていると思った。

映画の冒頭で、トイレタリーや化粧品関連会社のB&R社とエクイクロム社のCEOが、プライベートジェットから降りてきて取っ組み合いのけんかを始める。両方のスタッフが止めに入るが、なんだか子供じみていると思った。実はこの最初にシーンが、この映画の内容を象徴しているのだ。つまり、ライバル企業の産業スパイというともっと熾烈な情報戦があるのだが、それを茶化して笑い飛ばしてしまうユーモアがあるのだ。

そのスパイ合戦を、元CIAのクレア(ジュリア・ロバーツ)と元MI6のレイ(クライヴ・オーウェン)ががちんこ勝負をする。また、盗聴器、監視カメラ、偽造パスポート、ネットのハッキング、買収工作など殺し以外のあらゆる方法を採用している。古典的な色仕掛けもあるので、全く心理戦ともいう攻防が見られる。

時系列を何ヶ月とか何年とかさかのぼって、だんだんと真相がわかってくる脚本は観客もだます効果を出している。これが、実に楽しくて見終わると冒頭のシーンが象徴していたのだとわかる。だました方もだまされた方も、なんだか楽しくなってしまう終わり方は、非常におもしろいと思う。

それぞれCIAとMI6に所属していた現役時代に、レイ(クライヴ・オーウェン)はクレア(ジュリア・ロバーツ)の色仕掛けに会い、煮え湯を飲まされていた。そんな苦い思い出が忘れられない二人は、現役を引退して産業スパイになっていた。エクイクロムの産業スパイとして雇われたレイは、さっそく尾行をしたり、得意の色仕掛けで情報戦に取り組んでいく。

そんなある日、レイはかつて煮え湯を飲まされたクレアが、ライバル企業のB&Rの情報管理課(産業スパイ)の一員になっていることを知る。レイは、「俺のことを覚えているか」とクレアに食って掛かるが、クレアは知らん顔をする。スパイというのは、ほんとうの顔を簡単に見せてはいけない。

そんな二人が、だんだん惹かれあいながら疑心暗鬼になったりして心理戦を見せる。あまり、これ以上書くとネタばれになるのでやめておく。それにしても、観客もしっかりとだましてくれるこの監督は、サービス精神満点だと思う。愉快痛快な映画とは、こういう作品のことだ。



同じカテゴリー(2009年映画)の記事
空気人形
空気人形(2009-12-27 15:52)

アバター、字幕版3D
アバター、字幕版3D(2009-12-24 21:23)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

写真一覧をみる

削除
デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく
    コメント(0)