空気人形

浜松のシネマイーラで見た。映画祭やマスコミで話題になった作品で、やっと浜松に来た。ありがたいことだ。是枝裕和監督の最新作で、ネットでの評判もいい。非常に楽しみにしていたけど、その期待以上の一筋縄ではいかない濃い内容の映画だった。空気人形(ラブドール)が心を持ってしまう物語で、その周辺にいる人間たちの孤独感やゆがんだ心の中身を描いていく。空気人形が心を持ち学習すればするほど、他の人間が人間らしくなくなる。現代人なら誰でも持つであろう、悩みをこんな表現方法で描かれるとたまらない。

ファミレスの従業員秀雄(板尾創路)は、東京の川沿いの下町に住んでいる。夜遅く帰宅して、コンビニで買い物をして一人暮らしのアパートに帰る。そこには、しっかりと洋服を着た空気人形(ペ・ドゥナ)が待っている。あたかも恋人に話しかけるように秀雄は彼女と会話をして、食事をして風呂に入りいっしょに寝る。洋服を着せて公園にいっしょに出かけてしまうのだから、相当のキャリアだと思う。ある日、空気人形は心を持ってしまい、窓の外に手を伸ばしてみる。

すると、水が気持ちよく太陽の光が美しい。秀雄が仕事に行っている時間、外を出歩くようになった人形は色々な人に出会う。新聞で報道される重大事件の犯人だと交番に行く未亡人(富司純子)やもう若い娘にはかなわないと思っている受付嬢(余貴美子)、戻らない母親を待つ小学生萌(奈良木未羽)とその父真治(丸山智己)。そして、レンタルビデオ店の店員純一(ARATA)と店長鮫洲(岩松了)だ。

純一が親切にしてくれたので、彼女はそこに通いやがてアルバイトで働き始める。もちろん、秀雄が帰る時刻には部屋に戻っている。自分でお金を手に入れて時間ができると、彼女は色々な場所に遊びに行ったりして生きるのが楽しくなる。そして、純一と250ccのスクーターに乗って遊ぶようになる。純一に気に入れられたくなって、彼女は自分のことを偽るようになる。

元々の持ち主である秀雄を偽っているし、自分が空気人形だということも嘘をつく。でも、レンタルビデオの店内で棚の整理をしていたら、腕の先に穴が開いて空気が抜ける事件が起きる。いっしょにいた純一がセロテープで穴をふさぎ、お腹の空気入れから空気を入れてくれて救ってくれる。彼女は秀雄の部屋を出て、純一といっしょに暮らす決意をする。

自分の空気入れ用のポンプを捨てて、純一に自分の命を託す決意をする。ところが、その変化によって今までに心優しいはずだった秀雄は、実は次の人形を手に入れていた。そして、やさしい店長も欲望の固まりに変貌する。純一も実は、とんでもない性癖の持ち主だった。それに対して、受付嬢や未亡人や引きこもりの青年たちが、生き生きと変化していく。

ラブドールの人形師(オダギリジョー)が、出荷時点では同じでも古くなって帰ってきた人形たちを見ると「愛されていたかどうかわかる」と言う。空気人形は限りある命を生きようとしたが、それに全く答えていない人間たちが中身がないと感じた。空気人形は心を持ってはいけないが、我々人間は心をしっかりと持っているだろうか。それも、やさしくて心温まるものを持っているだろうか。



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この記事へのコメント
TBありがとうございました。
現代社会に生きる人の心の空虚みたいなものを考えさせられる映画でした。
Posted by hal at 2009年12月29日 12:26
halさん、こちらこそありがとう。
浜松地方は、12月にやっと公開されました。普通なら、なかなか来ないのです。
わても、この映画はいいと思います。
Posted by とらちゃん at 2009年12月29日 14:08
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    コメント(2)