キラー・ヴァージンロード

実際に樹海をさまよった経験のある自分から見ると、この映画で出てくる樹海はまるで整備された森林公園だ。ほんとうに死にたい人間は、木村佳乃演じる小林福子のようにアクセサリーをつけたり化粧をしていない。うつ病である自分が見ていて、コメディとして受け入れられるのだから健常者の方は大丈夫だと思う。一昔前のわてなら、とてもこんな映画を笑って見ることはできなかった。

映画の冒頭、OLの沼尻ひろ子(上野樹里)が上司(高島礼子)に嫌味を言われるが、「寿退社します」と宣言してミュージカルのようなシーンが繰り広げられる。このシーンがあるので、この映画は笑って笑って楽しむものだと把握できる。マンションの大家さん(寺脇康文)が、ひろ子の部屋にやってきて色々話をしにくる。翌日結婚式で引越しの支度をしている出て行く直前の店子の部屋に来るのは、絶対に変な大家だ。

案の定、おかしなことをやりだした大家さんはタンスの上に置いてあったハサミが落ちてきて、それを防ごうとしたひろ子もその上に重なってしまう。自分のせいで大家さんが死んでしまったと思ったひろ子は、スーツケースに大家さんを入れて歩き出す。コンビニでたまたま出会った小峰くん(小出恵介)のマスタングを失敬したひろ子は、富士山麓にある樹海に大家さんを隠そうと向かう。

山の中の道を走っていたら、木の上から福子(木村佳乃)がボンネットに落ちてくる。そこで、福子を助手席に乗せたが、スーツケースの中身を見つけられて、「死体の処理を手伝うから私を殺して」と変なお願いをされる。福子は男に尽くしては捨てられて、男運のなさに自殺しようと樹海に来ていた。ここでも、福子の昔の男たちが登場してミュージカルシーンがある。

ここでもう一度笑えると、この映画は一層楽しくなる。隣の部屋に住む大家さんが実は、ふく子の下着のコレクションをしていた変態だったり、犬の名前がおもしろいかったりする。暴走族の北翔(中尾明憲)や、自転車で登場する利根川巡査(田中圭)もおもしろい。そして、ふく子の祖父役の北村総一郎がうまい。

ふく子は小さい子供の頃から、何をやっても「ビリ」でビリ子とあだ名をつけられて馬鹿にされていた。ただ、祖父だけがそんなふく子を温かく見守ってくれた。そして大人になったふく子は、周りの人たちを見返してやろうとイケメンの婚約者賢一(真木大輔)と結婚することになる。いまどき寿退社が女の幸せとは限らないのに、ふく子の思い込みもなかなかのものだ。

そんなことを考えなくても、よくできた物語はエンディングに向けて愉快な展開を用意している。スーツケースをジェットコースターに見立てたアクションシーンは、ほんとうにおもしろい。怪しい殺し屋やペンションのオーナーも出てきて、サービス満点の脚本だ。

これは単純なコメディではなくて、どんなに落ちこぼれていても生きることは周りの人々に喜びをもたらすという主張があるのがいい。エンディングクレジットが終わってから、上野樹里の愉快な表情が見られるので明るくなるまで待つべきだ。シュールな監督のメッセージが感じられて、とっておきの表情が見られる。何はともあれ不況の今だからこそ、見てほしい映画だ。




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