アマデウス・ディレクターズカット

NHKBSで以前アカデミー賞特集として放送されたものを、録画したビデオテープで見た。実に180分3時間の大作ではあるが、全く退屈することはない。わてはこれを劇場で見る機会があったけど、なんとなく見逃した。1984年アカデミー賞10部門ノミネートで、8部門受賞した傑作だというのを知らなかった。自宅のテレビで見たけど、映画館で見るべきだった。当時の衣装や風俗、乗り物などを忠実に再現していて、オペラシーンの圧倒的なパフォーマンスは見るものの心を突き動かす。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(トム・ハリス)は小さい頃から音楽的才能があり神童と呼ばれ、4歳でコンチェルト・7歳でシンフォニー・12歳でオペラを作曲した。父レオポルド(ロイ・ドートリス)も音楽家だったが、自分のキャリアよりも息子の教師に徹した。ザルツブルグで生まれて子供の頃からヨーロッパ各地を演奏して回り、ローマ法王やマリア・テレジアや同じ年代のマリー・アントワネットの前でも演奏している。

ザルツブルグの大司教に仕えるがけんか別れして、ウィーンにやってくる。そして、神聖ローマ帝国の皇帝ヨーゼフ二世(ジェフリー・ジョーンズ)に仕えるが、自由奔放な言動とその斬新な作品のために徐々に受け入れられなくなる。一方、アントニオ・ザリエリ(F・マーレイ・エイブラハム)はイタリアから努力を重ねて宮廷作曲家の地位を手に入れて達成感を持っていた。でも、努力して出世したのに、モーツァルトの才能がとても自分とかけ離れているのを察知したので、尊敬や嫉妬が交じり合った複雑な感情を持つ。

映画はモーツァルトが死亡して32年目、年老いたザリエリが錯乱して首を少し切り精神病院に運ばれるシーンから始まる。病状が安定して、神父のフォーグラー(リチャード・フランク)にそれまでの懺悔を告白していく。自分がモーツァルトを殺したと叫ぶザリエリの話を聞いていく。努力した凡人と全霊をこめて芸術を生み出す天才は、天と地ほどの差があるのだと思い知らされる。

モーツァルトの死因にはいまだにはっきりした説はなく、ザリエリが嫉妬からこういう策略をしたというのは一つの解釈でしかない。どうも、現在の定説になりつつあるのは、子供の頃から長旅を続けたのでリュウマチなどの持病があった。そして、あまり医学の発達していない時代に、お金をどんどん使う生活を続けて自分の健康に配慮しなかった。また、35歳の亡くなる直前には「魔笛」や「レクイエム」の作曲に追われて無理をしたのが死を呼んだらしい。

この映画の中に登場するエピソードは非常に興味深く、「フィガロの結婚」、「ドンジョヴァンニ」、「魔笛」などの生み出される背景には重厚な物語がある。妻コンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)が夫の健康を気遣ったり、夫の仕事獲得のために奔走する姿も描かれている。ザリエリのスパイとして送り込まれたメードが、「もう見ていられないので、やめたい」と訴えるシーンは迫真的だ。

ザリエリを誤解していていたと信じ込み、「レクイエム」を口述してもらうシーンは天才ぶりのすごさを見ることができる。オーケストラの各パートを流れるように作曲していき、ザリエリが書き取れないほどの速さで音符が出てくる。このシーンは、命をかけている凄さが映像を通して伝わってくる。ザリエリはモーツァルトの2倍以上の75歳まで生きたけど、天才の音楽ほどの影響を後世に与えることがなかった。この現実は、どうあがいても変えることができない。神にいくら祈りをささげても、無理なこともあるのだ。

日本モーツァルト協会日本モーツアルト研究所ザルツブルグ国際モーツァルテウム財団。参照。



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