沈まぬ太陽

山崎豊子原作の同名小説を、渡辺謙・三浦友和・石坂浩二らの主演で製作された超大作だ。上映時間途中で10分の休憩時間が入る映画を映画館で見たのは、自分自身初めての経験だ。約3時間半の上映時間は、まったく凡長ではなくすばらしい脚本で退屈しない。ロケも色々な外国で行っていて、非常に力が入った重量感を味わうことができる。映画のラストで「小説を元にしたフィクション」だと説明しているが、国民航空(NAL)は日本航空(JAL)であるのは誰の目にも明らかだ。まさに、現在経営再建中の日本航空がこういう会社だったとは、老若男女を問わずお勧めできる映画だと思う。

123便の御巣鷹山墜落事故が起きた原因の一つに利益偏重と安全軽視があったことは、もう誰も否定しないことだろう。この映画に出てくる恩地元(渡辺謙)や行天四郎(三浦友和)や国見正之(石坂浩二)などや登場する政治家たちのモデルが誰かは、問題ではないと思う。航空機事故だけでなく、列車の脱線事故も多数の犠牲者を出した事故があった。高度成長期からゼロ成長とも言われる現在に、過去の誤りを振り返るのは有益だ。

この映画に出てくる終身雇用制の会社での組合運動も、いまや過去のものになりつつある。御用組合とか、共産党系の組合とか区別では現在の労働組合は語ることができない。もう、経営者も労働者も新しい仕組みを構築しないといけない社会構造になっている。そんな未来に向けた社会を考える際、こういう国が経営に参画していた航空会社や国鉄や郵便事業などの問題を検証するのは、必要なことなのだ。

さらに、この映画の秀逸な面は、史上最大の航空機事故を再現しながら、労働組合運動に熱心だったという理由だけで左遷を強いられた主人公恩地のリアルな描写があればこそなのである。脚本が非常にいい。過酷な労働環境に苦しんでいた1960年代と、123便の航空機事故を交差させて描いている。それは日本の産業界そのものが、世界にその名を広める過程と似ている。高度成長期には利益を追求して、労働条件も次々に改善されていく。ところが、利権というものが存在する業界には巨額な赤字が蓄積していく。そして、いつかはそれが破綻して、ほころびが出てくる。

労働組合の委員長と副委員長だった恩地と行天は、会社内の地位では天と地の差ができていた。恩地はパキスタン・イラン・ケニアなどへ歴任させられ、会社に詫び状を書くのを拒否し続ける。ところが、行天は御用組合結成に奔走して出世街道を登っていく。行天の方がバブル以前なら、賢い身の振り方だったと思う。恩地のかたくなまでの反骨精神は、損な生き方だと考えられている。

ところが、行天の生き方は法令順守(コンプライアンス)とはかけ離れていて、なんでもやりたい放題の会社第一主義だ。その詳細は、映画に嫌というほど多く描かれている。裏金の作り方や、役人との癒着、政治家を使った工作など、まるで体験者が語っているのを再現したようだ。そんなにまで手を汚しても、出世したいと昔は誰でも思ったのだろう。

でも、現在はかなり様相が違ってきている。もはや右肩上がりの成長は幻想であって、勝ち組と負け組がはっきりとできてしまう社会になった。しかも、その勝ち負けはいつ逆転するかわからない。アフリカの大自然に浮かぶ太陽の前では、日本社会での勝ち負けよりも大切なものがあることを教えてくれる。この映画を見た人は、それが何であるのかわかると思う。ほんとうにすばらしい映画を作ってくれたと感謝したい。



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