イングロリアス・バスターズ

映画オタクであるクエンティン・タランティーノが、長年温めてきた脚本を第二次世界大戦のナチス占領下のフランスを舞台に映画化した。1941年にフランス占領をしたナチス・ドイツは、傀儡政権を作りユダヤ人を迫害した。第一章でフランスの田舎町までSSの将校が来るのは、よくあったことなのだろう。その登場シーンは、まさに西部劇のようだ。一人逃げ延びるショシャナ(メラニー・ロラン)のシーンも、西部劇にある。

この映画の秀逸な着眼点は、途中からナチス側が迫害される恐怖におびえる点だ。さらに、映画館の中にヒトラーらの幹部を集めて可燃性フィルムを使って劇場に火をつける。スクリーンの布から火が出るのは、すばらしい演出だ。映画の中でナチス幹部を抹殺して、外に逃げたユダヤ人ハンターのハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)だけを生かして捕らえる。アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)が、「軍服を脱げば罪が消えると思うのは間違いだ」と言う。歴史上の事実とは違うが、ユダヤ人を迫害したことは許さない。その主張が、マニアックな表現で描かれている。

この皮肉たっぷりの表現方法と、ドイツ人女優で二重スパイのブリジット・フォン・ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)が登場してからの緊迫した演出がいい。地下のバーで落ち合うシーンが、迫力満点だ。特に、ショシャナが映画館経営者ミミューと名前を変えてドイツ軍の英雄フレデリック・ツォラー(ダニエル・ブリュール)と知り合って、自分の劇場とともにナチス・ドイツの幹部を燃やしてしまう計画が進行する。

二つの計画が一つに融合する脚本は、ほんとうによく考えたものだ。映画館を燃やすことによって現実との境界線を作ったと考えると、ワクワクしてきてしまう。1944年6月というのはノルマンディー上陸作戦が成功した時なので、フランスのパリの街中にはナチス幹部はいないのだ。映写技師のマルセル(ジャッキー・イド)が投げるタバコが飛ぶシーンは、ほんとうに名場面だと思う。

なお、若いドイツ兵の活躍する劇中映画「国民の誇り」は、バスターズの一人ドニー・ドノウィッツを演じたイーライ・ロスが製作した。また、二重スパイのブリジットには、モデルになった実在した女優がいた。そのほかのトリビアを知りたい方は、IMDBのトリビアを参照してほしい。



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