一命 3D

滝口康彦の「異聞浪人記」を原作に、三池崇監督が最新の3D技術を使って映画化した作品だ。福島正則が安芸広島藩主だった元和5年(1619)に、広島城本丸・二の丸・三の丸が大雨で被害を受ける。その洪水対策を勝手にやったのが武家諸法度に反したと、秀忠に安芸備後50万石を没収されて信濃国高井野藩4万5千石に改易させられた。その歴史的事実を元に、浪人とならざるを得なかった男たちの末路を描いている。生まれる場所や家が違うだけで、武士の将来が大きく変わってしまう。その現実の厳しさを市川海老蔵と瑛太が見事に演じている。2時間を越える上映時間が全く長く感じないほどのすばらしい作品だ。

映画でも紹介されていたように元和から寛永年間という設定だが、モデルになった井伊家の当主は直孝ではなく三代目の直澄(なおずみ)だという。戦国の世が終わり、戦場で戦ったことがない武士が大半となった時代という設定なので原作者が意図的に変えたのだと思う。「十三人の刺客」の原作もそうだったけど、実際のモデルと設定年代を変えるのが常套手段である。それと映画では青森に改易と言っていたように記憶しているけど、信濃が事実だ。井伊家の江戸屋敷が非常に立派なのは、映画のとおりだろう。

寛永年間、武家諸法度などにより理不尽な御家取り潰しによって路頭に迷う浪人が続出する。裕福な大名屋敷に押しかけて金品をもらおうとする狂言切腹をするものが横行する。ある日、大老まで出世した勝ち組井伊家の門前に、津雲半四郎(市川海老蔵)がやってくる。その堂々とした態度に、対応した家老の斉藤勘解由(役所広司)は真剣に話を聞く。まず家老側が、数ヶ月前に同じように切腹をしようとやってきた千々岩求女(瑛太:ちぢいわもとめ)の顛末を説明する。

千々岩求女は刀まで換金して、竹光しか持っていない。沢潟彦九朗(青木崇高:おもだかひこくろう)が介錯人になり、松崎隼人正(新井浩文:まつざきはやとのしょう)と川辺右馬助(波岡一喜:かわべうまのすけ)が立会い人としての役割を担う。切腹をしたければしろという命令に、求女は事情を説明する時間も与えられず竹を腹に何回も刺して死ぬ。数回刺しても介錯をしない沢潟をうらみながら死んでいった。それを聞いた津雲は全く動揺することなく、斉藤をにらみつけながら語りだす。

津雲は元福島正則の家臣で広島にいた。洪水での広島城改修事件でお役ごめんになり、自分の娘美穂(満島ひかり)と上司の子供で同じ年頃の求女を引き取って江戸で暮らしてきた。それから約20年後、美穂と求女は所帯を持ち子供も生まれた。ところが、もともと病弱だった美穂が寝たきりになり、赤ん坊も熱を出してしまう。その窮状を救うために求女は井伊家の江戸屋敷に行ったのだ。

津雲は、自分の介錯人に求女と同じ沢潟・松崎・川辺の三名を指名するが、彼らは逐電して姿が見えない。津雲は三名の命ではなく、侍の魂でもある髷を懐から出して見せる。屋敷内は騒然となって、井伊家の面目は丸つぶれになる。津雲は竹光で、何十人もいる井伊家の家臣と戦い、命をうばうことなく相手を倒していく。そして、ついには井伊家象徴である赤ぞろえの甲冑を家臣を投げ飛ばしてバラバラにしてしまう。爽快なシーンであった。甲冑はその後何事もなかったように殿様の前に飾られる。なんという虚飾に満ちた世界だろう。



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