種まく旅人~みのりの茶~

こういう映画はお茶の産地静岡で作って欲しかった。もうこれだけの完成度で公開されてしまったので、不可能なことになった。有機農業はまず土作りから始めるのが筋だ。その描写がないのでおかしいと思っていたら、大分県臼杵市に土壌センターがラストで紹介されていた。日本の農業の未来を考える上で絶好の映画になった。堅苦しいドキュメンタリー風の物語ではなく、役人の裏の顔や助成金の仕組みに農家の後継者不足と見所いっぱいの内容だった。説教がましくないユーモア溢れる演出はすばらしい。どこかの町おこし達人を連れてきて講演会をするよりも、この映画を見た方がよほど役に立つ。

一番見て欲しい方々は、農産物を買う消費者だと思う。役所に勤めている方は、こんな役人はいないと感じるに決まっている。農業をしている方々は、それで生活するのは大変なんだと言うだろう。子供を持っている親の方は、自分の子供に生き方を押し付けていないだろうか。これから人生の一歩を踏み出そうとしている方は、こういう映画を見ると勇気をもらえる。

東京のアパレルメーカーのデザイナーだった主人公森川みのり(田中麗奈)が祖父のいる臼杵市にやってきて、祖父の茶園を手伝うことになる。心臓発作で倒れた祖父が手術している間、農水省から出向してきた役人(陣内孝則)や市役所の農政課の若者(吉沢悠)の助けをもらってお茶作りに取り組む。みのりは自分が会社でデザイナーとして一人前だと思っていたが、会社側はコストダウンのために中国に部門を移籍する。中国側の監督役にと頼まれるが、みのりは会社をやめる。帰宅したみのりを待っていたのは、父修一(石丸謙二郎)からコネで今の会社に入社できたのだという知らないことだった。

自分が現在の会社に父のコネで入れたと知ったなら、そのショックは大きい。今までの人生を否定されたようなものだ。そんなみのりがやってきたのは、大分県臼枡市の山の中にある祖父修造(柄本明)の家だ。一方、農水省の官房企画室の大宮金次郎(陣内孝則)は休日をフルに使って農家を回る変人だ。身分を隠して有機農業オタクみたいな男として、各地の農村に知己を得ていた。あまりの変人ぶりに臼杵市の農政課に出向させられる。知り合いの修造の家を訪問して、みのりのお茶作りを指導することになる。

農政課の下っ端である木村卓司(吉沢悠)は、修造の有機農業に助成金を引き出したので上司からしっかりと返済できるように見張るように言われる。ということは、助成金には返済しないといけないタイプのものがあるのだとわかる。お茶は植えて数年後から収穫できるので、その収穫を見込んでお金を貸していたということだ。

木村の上司になる金次郎は、身分を明かさないでみのりのお茶作りを手伝う。木村と金次郎がお互いの正体を知らないのが、この映画の愉快な点だ。お茶の赤焼病が発生したときに、大規模農業法人の経営者が行政指導で農薬を散布しろと圧力を掛けてくる。全く興味深い。釜で炒って自家用のお茶を作るシーンは、懐かしさが溢れている。いまどきあんな古臭い機械は使わないなどを言わないで、劇場で見て欲しい。



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