ローマ法王の休日

中央ではかなり前に公開されたが、やっとわが地方にもこの映画が来た。ローマ市内にあるバチカン市国は、カトリック教会の総本山だ。カトリックの総本山というだけの存在よりも、もはや欧米社会の宗教界の代表者という存在になっている。「息子の部屋」のナンニ・モレッティ監督が、原案・脚本・出演まで担当して映画化した。ローマ法王の選出は前法王が蟄居されて、枢機卿たちの投票で選ばれる。枢機卿というのは教会の牧師のトップに立つ存在だ。人間的にも尊厳溢れる人たちばかりだと思ったら、庶民と同じ人間だという物語になっている。半分フィクションで半分は本当のことなのかもしれない。

システィーナ礼拝堂に全世界から集まった枢機卿120名がこもって、何回も投票をして次の法王を選ぶのがコンクラーヴェという。礼拝堂の煙突から出る煙の色によって、投票の結果が決定したかどうかがわかる。サンピエトロ広場にはテレビの中継が常備して、何万人という信者が歴史的瞬間を見ようとする。礼拝堂の中では、投票が行われている。ところが、枢機卿の誰もが「どうか選ばれませんように」と願っている。法王になってしまうと、その存在は神に限りなく近づいてしまう。一挙手一投足が注目の的になり、世界の平和にも思いをめぐらせる責任がのしかかる。

メルヴィル(ミシェル・ピッコリ)は、イギリスのブックマーカーも全然注目していない存在だった。自分もまさか選ばれるとは思っていない。それがどういうわけか、投票で一番になって法王になってしまう。大観衆が待ちわびている前に、紹介役の枢機卿が出てアナウンスする。メルヴィルはマイクの前に立つ寸前に、「私にはできない」と逃げ出してしまう。投票を行った部屋に一人逃げ込んで出てこない。困った報道官(イェジー・スツール)は男性の精神科医(ナンニ・モレッティ)を呼ぶが、らちが明かない。先入観にとらわれていない精神科医に看てもらうべきだという助言で、ローマ市内に出るとメルヴィルは逃げ出す。

メルヴィルが女性の精神科医(マルゲリータ・ブイ)にうつ病ですかと質問するのが、笑ってしまう。うつ病患者の自分からすれば、そんな短時間でうつ病にはならない。自分が法王になる資格などなく、信者を導く自信もない。その重圧から逃げたいために、セラピーを受けている。セラピーを受けても解決するわけがない。町の新聞やテレビでどう報じられているか、色々な市井の人々を見る。また、自分の生涯をなどったようなチェーホフの「かもめ」という舞台俳優たちに接して、自分の境遇を受け入れていく。本番の舞台を観ているときに、バチカンから枢機卿や護衛たちが迎えに来る。そのシーンとラストのスピーチがいい。自分を飾らないで、ありのままの姿でいいのだと悟る。

これは、メルヴィル自身の人生再生の物語であるのと同時に、観客も同じ体験ができる内容になっている。どんなに格好つけて、地位がある人でも怖いものがある。押し潰されそうなときは誰にでもある。枢機卿たちがグループに別れてバレーボールをする。その生き生きとした表情がすばらしい。ストレスから解放されて、枢機卿たちはメルヴィルの気持ちがわかったのだろう。来年になるとDVDが出るけど、その前に映画館で観てほしい作品だ。

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