バケモノの子

細田守監督・原作・脚本で作られた「バケモノの子」を見てきた。相当のヒットになっているので見ておきたいと思ったのだ。渋谷の街とパラレルに存在するバケモノの世界を舞台にして繰り広げられる人間の少年の成長物語になっていた。ハーマン・メルヴィルの「白鯨」がモチーフに使われており、その主人公であるイシュメイルのモデルである旧約聖書のイシュマイルのキャラクターも映画の物語に影響していると思った。非常に考え過ぎかもしれないけど、映画の展開とそっくりだから仕方がない。

白鯨における鯨は、人間の力では太刀打ち出来ない絶対的な存在として登場する。子供は親を選べないし、一人では生きていけない。白鯨の主人公イシュメイルは、鯨に船を破壊されて漂流して最後に生き残る唯一の人間だ。その名前は旧約聖書のイシュマイルから来ていると言われている。イシュマイルは父アブラハムの女奴隷のハガルを母に持つけど、正妻のサラから疎遠にされて荒野に追放される。この追放される展開が、九太や一郎彦の境遇と一致する。

九太が出会ったのが、バケモノの熊徹(役所広司)だ。人間の世界で生きているのが嫌になった九太は、バケモノの世界で生きるしかなくなる。最初はいがみ合っているけど、すぐに打ち解けて弟子になる。バケモノの世界の後継者争いで、猪王山(いおうぜん:山路和弘)が熊徹の最大のライバルだ。猪王山はイノシシの親分みたいな存在で、弟子をたくさん持ってる。息子に、頭のいい一郎彦と人がいい二郎丸がいる。

九太の周辺にいる豚顔の百秋坊(リリー・フランキー)と猿顔の多々良(大泉洋)が、非常に面白いキャラクターだ。吹き替え役を想定して、造形されているのだろう。力だけは誰にも負けない熊徹と、冷静な分析ができる百秋坊、ちょっと物事を斜めに見る多々良、それらの大人といっしょに生活することで九太はたくましい青年に成長するのだ。九太を一人前にした熊徹は、猪王山と互角に戦えるまでになる。

九太は自分が人間であることを忘れていない。渋谷の街に戻り、高校生の楓(広瀬すず)と知り合い勉強を教えてもらう。というよりも、楓と知り合って人間としての生き方も学んでいく。バケモノの世界の宗師の座を巡って熊徹と猪王山が対決するけど、力だけ強くてもリーダーにはなれない。思いやりも必要なのだけど、それを受け入れられないのが一郎彦だ。自分の怒りを表現するために、人間が絶対にかなわない鯨に変身してはいけないのだ。それを止めるために、熊徹は自分の身を捨てたのだろう。すばらしい作品を作ったと思う。星5個。

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