黄金のアデーレ 名画の帰還

ミケランジェロ・プロジェクト」でもテーマになったナチスによる略奪美術品の数奇な運命を扱った映画だ。映画としての評価は星5個の満点だ。1907年に制作されたクリムトの「アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像Ⅰ(黄金のアデーレ)」の相続人だとわかった女性が弁護士とともに、オーストリア政府と返還闘争を繰り広げる。モデルになった叔母との記憶やナチスから逃れる様子が時節表現されており、重厚なドラマになっている。過去の歴史を清算しつつ未来へ向けての素晴らしいメッセージになっている。演技、脚本、美術、演出、音楽すべての面で最高の評価を与えたい。間違いなく今年の洋画ベストテンに入る。

ユダヤ人女性マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)はナチスに占領される直前に、オーストリアで結婚した。家族は裕福で、芸術家(クリムト、マーラー、フロイトら)のパトロンをするほどだった。叔母のアデーレとは子供の頃可愛がってもらった思い出があり、その肖像にも人一倍思い入れがあった。でも、ナチスの迫害から逃れるためにアメリカに亡命していた。長い人生で忌まわしい過去を忘れており、姉が死ぬまで思い出さなかった。姉の遺品を整理していたら、遺言の手がかりが出てきた。

1988年に友人の息子で若い弁護士のランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)に依頼して、オーストラリア政府に返還要求を出す。ランディとマリアは1週間の予定でウィーンに渡り、ベルベデーレ美術館や文部大臣に面会するが門前払いをくらい帰国する。マリアはもう忌まわしい過去を思い出したくないと諦めるが、ランディの方が今度は祖父で作曲家のアーノルドの故郷であるオーストリアに関心を深めていく。そして、弁護士が持ち主を説得するような逆の展開になる。

黄金のアデーレがベルベデーレ美術館に展示されたのは1943年であり、ナチスの統治下だった。そのまま戦後もオーストリア政府は国の持ち物として、オーストリアのモザリザとして国宝みたいな扱いをしていた。いくら法的な相続人が所有権を主張しても、戦う相手が大きすぎる。また、マリア本人も忌まわしい過去を忘れたいという感情が出てきて、難しいことになってしまう。ナチスから亡命するために飛行機に乗り込むシーンは心臓に悪いくらいドキドキした。

また、ナチスがウィーンに入ってくるのを大歓迎している市民の様子は手のひらを返したように薄情だ。戦争が終わったらその過去に蓋をして都合の悪いことを忘れようとする。それが当時のオーストリア政府の考え方なのだ。その壁にぶつかっていく弁護士ランディのたくましさといい、最初は弱々しいヘレン・ミレンが「クイーン」のような顔立ちに変わっていくのもすばらしい。

クリムトとモデルのアデーレが生きていた頃の再現シーンも芸術的なのだ。過去の歴史の清算というのは、こういうことのだろう。こんな映画が日本でもできるだろうかと、無理な願望を抱いてしまった。

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