永い言い訳

西川美和原作・脚本・監督の家族のドラマである。関係が冷え切った夫婦で妻が不慮の事故で亡くなったあと、夫が贖罪を成し遂げて作家として再起するまでを描いている。説明的セリフがないので、登場人物たちの表情などから彼らの感情を読み取らないといけない。子役の二人の演技が自然でうまいのは、監督の手腕だと思う。妻が友人と旅行に行ったときに、自宅に不倫相手を連れ込んでいた夫は最低な男性だ。人間としても最低だろう。

冒頭のシーンで夫・衣笠祥雄(本木雅弘)の髪の毛を、美容師である妻・夏子(深津絵里)がカットしている。結婚してから20年間ずっと妻にカットしてもらってきた。ということは夫婦仲もいいと思わせるけど、それが違う。夫の髪の毛をカットした妻が友人・大宮ゆき(堀内敬子)と旅行するために外出すると、夫はすぐに愛人(黒木華)を自宅に招き入れる。

その時点で観客はびっくり仰天する。いま流行りのゲス男の典型だ。しかも、妻たちが乗っていたバスが転落して二人共亡くなってしまう。作家で有名人の祥雄はテレビカメラに追われることになる。神妙な顔をしているけど、愛がないので全然泣けないし悲しくない。全く最低の男だ。バス事故の遺族説明会で感情的になった大宮ゆきの夫・陽一(竹原ピストル)と知り合う。妻同士が親友だったので、話も進む。

陽一には小学生息子・真平(藤田健心)と、保育園児の娘・灯(白鳥玉季)がいた。トラック運転手の陽一は家にいないことが多いので、祥雄が週2回面倒を見ることになる。子供がいない祥雄にとっては、妻を亡くした喪失感と不倫をしていた罪の意識を忘れられる機会になる。二人の子供の受け答えが自然なので、実に心温まる。でも、いつかは妻の喪失感から脱却して前に進まないといけない時期がやってくる。

子どもたちはそれが一番早い。陽一が遅いのかと思ったら、そうでもない。陽一は自分が妻の代わりに死ねばよかったと思っている。実際に子どもたちもそう思っている。祥雄は愛していない妻が亡くなったので、ダメージは少ないと思っていた。でも、罪の意識は誰よりも強いのだ。祥雄が本当に立ち直るには、作家として再出発するしかないのだった。そこまでの過程が実に丁寧に描かれていた。すばらしい作品だ。星5個。

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