人魚の眠る家

東野圭吾原作の同名小説の映画化だ。わてはこの映画が我が子を脳死と判定された親の悲劇の物語だと思いこんでいた。脳死と判定されたら臓器移植をするドナーになるかどうかの決断をしないといけないのだ。そう簡単に決断できるわけじゃない。普通の内容ならどうするのか葛藤する。この映画は途中まではその路線で進む。でも、そこからとんでもない予想外のサイエンスフィクションの要素が入ってきて、一層深く切り込んでいく。あまりにも深くえぐられた物語に置いていかれそうになりながら、エンディングを迎えてしまった。

この力技は原作者、脚本、監督の力量なのだろう。脳死は概略として脳波が平坦で、自発呼吸の停止、痛みに対して無反応などから判定される。この脳死判定をする決断をすることは臓器移植が前提になっている。間際になって母・播磨薫子(篠原涼子)が思いとどまって自宅療養すると言い出す。そして、横隔膜ペースメーカー(呼吸ペースメーカー)を埋め込む手術を娘瑞穂(板垣来泉)に行う。呼吸ペースメーカーを埋め込むと、自発的な呼吸ができる。自発的な呼吸ができれば、血の巡りがよくなって流動食も消化できるようになる。

入れることができれば出すこともできる。そうすると、なんと身体が成長し始めるのだ。ホルモンバランスもよくなって、もう足りないのは意識があるかどうかということだけだ。薫子は瑞穂の小学校受験が終わったら、夫の和昌(西島秀俊)と離婚する予定だった。それが瑞穂のプール事故で夫婦が形式上の再結成になる。これは奇妙な復活であり、形式上のものだ。ただ、瑞穂の世話をするという目的では同じ方向を向いているのだ。

そこから夫の会社の最先端の研究である、筋肉を動かす信号を人工的に出して、動かなくなった手足を動かす技術を応用しようとするのだ。その部署の研究員である星野卓也(坂口健太郎)が駆り出される。最初は交通事故などで足が動かなくなった患者のリハビリのために利用していた技術である。脳からの運動指令の信号を途中で受け取って、手足を動かす装置は実用化されている(OG技研)。でも、この映画のような首の後ろに装置を置いて手足を動かすのは、まだフィクションであると思う。

その前提で物語を読み解くことにしよう。映画の後半は近未来フィクションとして考えた方がいい。もうすぐ実現可能なのかもしれないけど、架空の物語だと思うのだ。だからといって絵空事だと馬鹿にしてはいけない。篠原涼子の究極の選択は劇的だった。鬼気迫る母の愛情を突き詰めるとあのような行動になる。親の愛は海よりも深いということだろう。

ぜひ劇場で、この衝撃を味わってほしいと思う。最初にキャッチボールをしている少年たちがいるけど、あの数の少年少女が瑞穂ちゃんの命を受け継いだのかもしれない。星5個。

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