64ーロクヨンー前編

横山秀夫原作の警察を舞台にしたミステリー巨編の映画化だ。佐藤浩市、三浦友和など主役級の俳優がぞろぞろ登場する力作になった。前後編2部作にしたのは原作の膨大な情報量を映像化するのにそれしか方法がないからだ。なんちゃって2部作の映画とは全く違い、弩級のハードな物語になっていた。ある県警を舞台にして繰り広げられる誘拐事件や記者クラブと広報のやり取り、警察組織の対立など映画が何本かできてしまうような密度の濃い物語だ。前編だけを見たけど、邦画の今年のベスト3くらいには間違いなく入るだろう。傑作だと思う。

刑事が登場する映画はたくさんあったけど、こんなに現場を真剣にリアルに描いた作品はなかなかない。エンターテイメントの気配すらないというくらい見応えがある。昭和64年は7日間しかなかったけど、少女誘拐事件が発生した。世の中は天皇崩御で大騒ぎになり元号が変わって、昭和のことはどんどん記憶から失われていった。でも、この県警の管轄下で発生した誘拐事件は初動捜査のミスが響いて手がかりもない状態で時効を1年後に控えていた。

その初動ミスは犯人からの電話を録音できなかったというもので、それ自体を県警は隠蔽していた。隠蔽の事実がわかるのは、広報官三上(佐藤浩市)が足を使って当時の捜査関係者を聞いて回って調べて初めて明らかになったことだ。もう警察をやめてスーパーの警備をしているもの、転勤して退職間際に小さな警察署の署長になっているもの、ミスの当事者で引きこもった人間、警察をやめて農業をしているものらがいた。それらの人間のところに何回も足を運び、やっとわかったのだ。

それに比べると、主婦が車で独居老人をはねた交通事故は微々たる事件だけど、なぜか警察は主婦の名前を匿名にする。記者クラブの人間たちはなぜ加害者が匿名なのかと、騒ぎ出し県警本部長に直接要求書を出そうとする。それを必死で止めに入る三上は、組織を守るために行動している自分に嫌気がさす。そんな三上は、記者クラブに対して原則実名報道を行うと、独断で宣言してしまう。もちろん、そこまでの結論に達するには多くの出来事があった。

その直後、14年前の誘拐事件ロクヨンと全く同じ手法で子供の誘拐事件が発生して前編は終わる。警察組織でもどこでもそうなのだと思うけど、キャリア組は国家公務員上級試験を合格したエリートだ。彼らは官僚としてのキャリアを階段のように上がっていき、数年ごとに移動する。自分が在任中に不始末が起きないことを心配する。それに対して、ノンキャリアの警察学校出身の叩き上げの人間は正義感の塊みたいに頑固である。両者がぶつかりあってうまく回らないと、解決する事件も解決しない。後編が楽しみだ。星5個。

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